ブックコーディネーターの内沼晋太郎さん。東京・下北沢にある独立系書店「B&B」を立ち上げた。B&Bは現在、連日、有料イベントを開催。ビールを飲みながらイベントや本探しを楽しめるというユニークな書店であるブックコーディネーターの内沼晋太郎さん。東京・下北沢にある独立系書店「B&B」を立ち上げた。B&Bは現在、連日、有料イベントを開催。ビールを飲みながらイベントや本探しを楽しめるというユニークな書店である

深刻な出版不況に突入した2000年代。当時大学生だったブックコーディネーターの内沼晋太郎は、出版不況を描いた故・佐野眞一の名著『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)に刺激を受け、本の世界に飛び込んだ。前編記事で触れた通り、それまでなかったような独立系書店を生み出し、本の世界を変える挑戦を重ねる内沼は現在、「書店を開きたい」という本好きたちの相談にも答えている。果たしてどんな狙いがあるのだろうか。(本文は敬称略)

【前編記事から読む】
続々誕生する独立系書店。その仕掛け人が考えた「本を読まない層が読みたくなる」驚きの工夫とは?

(浜田 敬子:ジャーナリスト)

誰が、本の未来の可能性を潰しているのか?

 ブックコーディネーターの内沼晋太郎(43)は今、本屋を開きたいという人向けに、自身の本屋経営の経験やノウハウを惜しみなく伝えるために本を執筆し、講座を開き、X(旧Twitter、アカウントは@numabooks)で相談に乗っている。著書『これからの本屋読本』(NHK出版)では、取次を取材して詳細な仕入れルートまで伝え、Xでは、「#内沼晋太郎質問箱」というハッシュタグで毎日のように本屋経営や本に関する質問を受け付けて答えている。

 ある日は「事業計画書の現実味を確かめたい」という質問に、近隣の店舗を調査することや参考図書まで約1500字もの丁寧な回答を寄せている。その献身ぶりには驚く。

内沼さんのX(旧Twitter)の投稿の一例。「小さな本屋さんを開きたい」という問いに、丁寧に答えている

 そこには「どんな人でも街の中に本が手に取れる場所を作ってくれるなら全力で応援したい」という思いがある一方で、出版業界や書店業界に対する静かな怒りのようなものもある。内沼は著書『これからの本屋読本』の中で、こう書いている。

「いわゆる出版業界、出版社や取次や書店などを経営していたり勤務していたりする人の中には、折に触れて『本の仕事は儲からない』と愚痴を言い、若い人が『本屋』になりたいなどと言うと、『本屋など未来がないからやめておけ』と自嘲気味にアドバイスする人がいる。そういう行為こそが、『本』の未来の可能性を潰している」

 今、内沼の元に「本屋を開きたい」と相談を寄せる若い世代にはいくつかの共通点があるという。インターネットやいろんなメディアが出てきても、それでも本が1番面白いという人、自分には本しかないという本好き。自分の街から本屋がなくなることへの怒りや悲しみがあり、だったら「自分が」という使命感に駆られた人……。

 そんな若い世代に向けて、今の時代にあった、小さくても持続可能性のある書店経営のキーワードとして内沼が提示するのは、「掛け算」と「ダウンサイジング」だ。