(写真:Sono Ringo/Shutterstock.com

5月下旬の発売以来、多方面で話題を呼び、17万部を超えるベストセラーとなっている新書『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)。「げらげら」「もぐもぐ」「ふわふわ」といった、日本人が日常生活の中で頻繁に使っている「オノマトペ」をキーワードに、認知科学者と言語学者、2人の研究者が「言語の本質とは何か」という大いなる問題に挑んでいく。知的好奇心を刺激する学術書として、ヒトの根源に迫る哲学書として、大興奮の冒険の書として読みどころ満載の1冊。共著者である今井むつみと秋田喜美に話を聞いた。(敬称略)

(剣持 亜弥:ライター・編集者)

オノマトペはれっきとした“ことば”

 認知科学・発達心理学を専門とする今井むつみは、長らく「子供というのはなぜこんなにオノマトペが好きなんだろう」という素朴な疑問を抱いていた。

今井むつみ・慶應義塾大学教授(以下、今井)
「子供向けの絵本には頻繁にオノマトペが登場するし、大人が子供に話しかけるときにも、オノマトペをよく使いますよね。どうしてなんだろう、と。私はこれまでに、音と意味のつながりが言語の発達にどのような役割を果たすのかを調査するために、乳幼児を対象にした実験を数多く行ってきました。そのときにいつも頼りにしていたのが、オノマトペを研究している言語学者の秋田さんだったんです」

今井むつみ・慶應義塾大学環境情報学部教授今井むつみ・慶應義塾大学環境情報学部教授

秋田喜美・名古屋大学准教授(以下、秋田)
「言語学では長い間、オノマトペは周辺的なテーマとされていて、『言語ではない』という位置付けでした。でも、一定の文法があるなど、言語現象として議論できる部分もあるんです。たとえば、『〜する』がつくかどうか。『ぶらぶら』と『てくてく』はどちらも歩いている様子を表すオノマトペですが、『ぶらぶらする』とは言うけど『てくてくする』とは言わないですよね。つまり、『この言い方はいいけれどこの言い方はダメ』という言語的な規則性があるということです」

秋田喜美・大学院人文学研究科准教授秋田喜美・大学院人文学研究科准教授

 オノマトペに魅了された2人が本書の執筆を始めたのは5年ほど前のこと。学術系の本で共著の形をとる場合は、それぞれ章を分担して書くケースが一般的だが、今回はコミュニケーションをとりながら、すべてをともに執筆した。

今井「言語習得や言語進化など、お互いの研究に共通の目的があったので、それを一緒に考えながら、最終的に『言語の本質とは何か』という問題に迫っていければと。ただ、言語学の正統派の専門書ではありませんから、『本質』という強い言葉を使うのはちょっと怖かったんですよね。と言いながらそれを提案したのは私なのですが(笑)」

秋田「言語学者としては究極の大テーマです。今のところは怒られていませんから大丈夫じゃないでしょうか(笑)。それに、このストレートなタイトルだからこそ、幅広く多くの人に手に取っていただけたのではないかとも思います」