千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』。異世界転生もののラノベのようなタイトルだが、正真正銘のノンフィクションである。しかも現在進行中。著者の済東鉄腸氏は、今も「千葉からほとんど出ない引きこもり」状態で、「ルーマニア語の小説家」として活動をしている。熱く、苦しく、胸を打つ、まさに小説よりも奇なり、な顛末を聞いた。

(剣持 亜弥:ライター・編集者)

純粋な趣味を極めてここに至る

「引きこもりとか持病とか、結構、暗黒の十数年を過ごしてきましたけど、こうして1冊書き上げたことで、俺の人生はマイナスからやっとゼロになり、ここからプラスへの道が始まるな、やっとスタートラインに立ったな、っていう感慨がありますね」

 出版社から企画書が来て、およそ2週間半後には第一稿を書き上げていたという本書『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』(以下『千葉ルー』)は、頭から終わりまで疾走感あふれる筆致が怒涛のごとく続き、読む者を引きつけて離さない。

 1992年生まれの済東鉄腸は、30年間、千葉で実家暮らし。「考えすぎ人間」が高じて、大学卒業後の2015年から引きこもり中。コロナ禍を経た今では、出かける場所といえば近所の図書館と、図書館横のショッピングモールくらい。

 しかし、物理的な移動距離は短くとも、知的、精神的な活動量がものすごい。

「今日も、図書館で本借りてきたんです。『憲法のimagination』『ロンドンならすぐに恋人ができると思っていた』『昆虫の惑星 虫たちは今日も地球を回す』『アストロラーベ:光り輝く中世科学の結実』『ファイナンス理論全史』『リスボン 災害からの都市再生』『安岡章太郎短編集』…。いつも、直感的に興味を引いた本を借りられるだけ借りてくるんです。だいたい1冊1〜2時間で読んじゃいますね」