出版の世界では知らぬ人のいない名著『だれが「本」を殺すのか』(佐野眞一著、プレジデント社)。2000年代初頭に発売された本書は、出版不況の実態と本質について多角的な取材を重ねて描かれている。本書の発売から20年以上が経ち、本を取り巻く世界は一層厳しさを増している。だが、一方では救いもある。かつては想像もしなかった動きが、あちこちで生まれているからだ。日本各地の書店が消える中、「本を売る」挑戦を続けて書店業界を変えようとしているのが、ブックコーディネーターの内沼晋太郎だ。内沼は、本の世界をどのように変えようとしているのか。(本文は敬称略)
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◎第1回 書店業界と決別した風雲児が15年ぶりに復帰、開店した「シェア型本屋」とは
◎第2回 「町の本屋」を復活させる!じり貧の書店業界に構築する新たなエコシステム
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(浜田 敬子:ジャーナリスト)
日本各地で、老舗書店が次々に消滅している
全国から本屋が消えている——。2023年に入って、出版文化産業振興財団の調査で、全国の自治体の約4分1に当たる456の市町村に書店がないという実態が明らかになると(2022年9月現在)、多くのメディアで大きく取り上げられた。
最近では長年地域で親しまれてきた個人経営の書店だけでなく、その町の顔とも言えるような大型書店の閉店のニュースも相次ぐ。「書店 閉店 ラッシュ」で検索すると、地方の中核都市ですら、書店経営が厳しい現状を思い知らされる。
2023年4月には、「書店員の聖地」とまで呼ばれた鳥取市内の定有堂書店が、名古屋市でも正文館書店本店など地域に密着していた書店が何店か閉店。中でも「古田棚」と呼ばれた店長、古田一晴の選書が有名だったちくさ正文館書店の閉店は、多くの出版関係者に衝撃を与えた。大分市では県内屈指の大型書店だった、大分駅前のジュンク堂書店大分店が28年の歴史に幕を下ろした。
出版科学研究所によると、1998年に約2万2000軒あった書店は毎年3〜5%のペースで減少し、2022年には約1万1500軒にまでになった。半減しているのだ。
出版や本に関わる人たちの間に広がるのは、残念だけど仕方ないという、ある意味、“諦め”のような空気だ。ノンフィクション作家の故・佐野眞一が20年ほど前に著書『だれが「本」を殺すのか』(プレジデント社)で追及した出版不況の構造的な要因の多くは解決したとは言えず、むしろ状況は深刻さを増しているからだ。
一方で今、全国では独立系書店と呼ばれる個人経営の書店が次々と誕生している。もちろん全体状況を反転させるほどの数ではない。だが、全国の独立系書店を特集した書籍も発売されるなど、今本屋を開く人、開きたいと思う人が後を絶たない。
決してラクなビジネスとは言えない書店経営に踏み出す人がポツポツ現れ出したのは、2010年代に入った頃からだ。出版業界の取材を進めると、独立系書店の広がりには欠かせない、何人か(何軒か)の“お手本”と呼べるような存在がいる。内沼晋太郎(43)はまさにそんな1人だ。