岸田首相は米ニューヨークで投資家向けに講演、資産運用への海外勢の参入を促した(写真:共同)

セゾン投信会長を退任した中野晴啓氏による連載「中野晴啓の正しい投資」。第3回は、生活者が資産を着実に増やしていけるように、資産運用会社の能力をどう高めていくのかについて考える。岸田文雄首相は「資産運用立国」「資産所得倍増プラン」を掲げているが、業界が抱える構造的に根深い課題とは?

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 9月に入り、無事に新たな会社を設立しました。名称はひらがなで私の名前を付け、「なかのアセットマネジメント」としました。これから、金融庁への認可申請に向けた準備を本格化させます。

 さて、前回は、2024年から始まる新たなNISA(少額投資非課税制度)を題材に、「長期・積立・分散」という資産運用のスタイルが生活者にとっていかに大切か。そして、新NISA誕生に至る経緯には、投資信託をめぐる長い苦難の歴史があったことをお話ししました。

 今回はもう一歩踏み込んで、資産運用業界が抱える構造的な問題についてお話します。

 岸田文雄首相は9月21日(現地時間)、米ニューヨークで投資家向けに講演し、日本の資産運用業への海外からの参入を促進することを表明しました*1。世界から腕利きのファンドマネージャーを日本に呼び込み、岸田首相が掲げる「資産運用立国」「資産所得倍増プラン」の実現を後押しする狙いのようです。

*1岸田首相「資産運用特区を創設」 海外勢の参入促す(9月22日付、日本経済新聞)

 資産運用業界での競争が加速し、その結果、生活者の資産をもっと増やせるようになる可能性が高まるという点では、歓迎できる話です。しかし裏を返せば、日本の資産運用業界の現状は資産所得倍増プランを実現するには「実力不足」と岸田首相に言われたようなものです。日本で資産運用を手掛けてきた私たちは、このニュースを真摯に受け止め、海外のファンドマネージャーに負けないような運用成績を上げていかなくてはなりません。

 確かに、実力不足と見られても仕方がない現実があります。金融庁が2023年4月に公表した「資産運用高度化プログレスレポート2023*2」で見てみましょう。運用会社の実力不足につながる痛い指摘が満載です。

*2「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の公表について(2023年4月21日付、金融庁ウェブサイト)