「死に筋」も放置、情報開示に消極的
粗製乱造をうかがわせる状況を、プログレスレポートが示しています。
歴代当初設定額上位20ファンドの純資産額の推移をみると、販売開始後数カ月から1年半以内に純資産額はピークを迎え、その後は急速に減少しています。顧客が長期にわたって保有し続け資産を増やしているのであれば、純資産は右肩上がりに増え続けているのが理想です。しかし、そうなっていません。歴代上位20のファンドですらこのような状況ですから、その他のファンドの状況も類推できるでしょう。
金融庁はプログレスレポートの中で、「顧客の最善の利益に適う販売方法や運用商品の選定が行われていなかったことがうかがえる」と指摘しています。
継続的に資金が流出するような人気のなくなったファンドは閉じればいいのですが、手間かかる手続きを販売会社が嫌い、実際はなかなか進んできませんでした。最近になって、野村アセットマネジメントが2030年までに約700ある投資信託の数を半減させることを表明していますが、業界全体ではファンドの削減はまだこれからという状況です*3。
*3:投資信託「多すぎ」にメス 野村アセット、30年に半減へ(5月31日付、日本経済新聞)
小規模なファンドが粗製乱造されてきたため、ファンドマネージャー1人あたりが担当するファンドの数は10本以上が当たり前。そんな状況で、一つひとつのファンドを丁寧に運用できるはずがありません。ほとんどメンテナンスされていない古いファンドもあります。
ある大手資産運用会社のファンドマネージャーに自分が運用するファンドに投資しているかを聞いたことがありますが、していないという人もいました。担当する数が多すぎるために中には運用に自信を持てないファンドがあるのかもしれません。しかし、そんな状態で運用にコミットできるのか疑問です。
かつては、「これは死に筋だからお前が担当して練習しておけ」などと人気のないファンドを新人のファンドマネージャーに丸投げするということも横行していました。命の次に大切なお金を預けた人にとっては、許されないことです。
そのような状況は、運用状況の情報開示に後ろ向きな姿勢につながってきました。端的に示すのが、運用担当者氏名の開示状況です。各国の状況を比較すると、米国は100%程度であるのに対し、日本は2%程度と主要26カ国・地域で最低水準にあります。
「誰が運用しているのか」という運用責任を明確にすることは、顧客から信頼を獲得する上で欠くことのできない情報でしょう。プログレスレポートには、運用担当者の氏名開示に消極的な代表的な理由が示されています。「組織として運用の質を維持できれば、開示は不要」「開示すると作業負担が増える」「運用成績が悪いと担当者の評判が下がる」「実績がある担当者を引き留めることが難しくなる」といった内容です。
しかし、海外の資産運用会社ができているのに、できない理由を並べるのは言い訳にしか聞こえません。