現状は「他省庁は予算を求め、政治家は徴税を恐れ、マスコミはネタを求めて、財務省にひれ伏しています。世界を見渡しても『予算編成権』という企画部門と、『徴税』という執行部門が一体となっている財務省のような組織は例外的です」
財務省は税の入口と出口をがっちりと握って放さないのである。
現在、「年金保険料の徴収漏れは数兆円規模と推計」される。しかしこれは歳入庁を創設すれば減らすことができる、と高橋氏はいう。マイナンバー制度も「消費税インボイス」をやるのなら、歳入庁創設を前提にしなければ有効とはいいがたい。そうすれば「税・社会保険料で合計10兆円程度の増収になる可能性がある」
しかしできない。政治家は国税庁の上部組織の財務省主税局に頭があがらない。財務省も権力の源泉であり自分たちのポストでもある国税庁を死守する。国税庁長官は事務次官になれなかった人が最後につくポストで、東京・名古屋・大阪国税局長もキャリア官僚のポストだ。マスコミも国税庁の調査能力を怖れて議論をしない。
歳入庁の創設に財務省は徹底的に抵抗する。「国税庁は財務省の“植民地”になっており、国税権力を財務省が手放さないのです」
財務省の罪は多々わかっている。だがだれも罰することができないのだ。
財務省と戦った安倍元首相
わたしは安倍晋三首相をある意味、誤解していたところもある。
百億円単位の巨額を使って軽薄にアベノマスクを使った愚策や、伊藤詩織氏をレイプしたとされる元TBSワシントン支局長の山口敬之氏の不逮捕疑惑や、森友問題での国会答弁の曖昧さなどで、わたしは安倍首相が好きではなかった。国葬にも反対だった。
これらの点ではいまでも反省はないが、安倍首相が財務省と戦い、国民のための政治を本気でやろうとしていたとはじめて知ったのである。高橋氏は第一次安倍内閣のブレーンを務めた。財務省は財政再建・金融引き締めだが、安倍内閣は経済成長優先・金融緩和で対抗した。「増税ではなく経済成長による増収」を目指した。
安倍首相が財務省依存から脱して、消費増税の二度にわたる延期をし、財政出動ができたのも、日銀の副総裁に「金融緩和に積極的なリフレ派の岩田規久男氏を起用でき」、積極的な金融緩和に取り組めたからだという。
高橋洋一氏は第一次安倍政権で「旧社会保険庁を解体し、歳入庁を創設しようとした時」、財務省は「激しく抵抗」したという。理由は「国税庁を財務省の配下におけなくなると、財務省からの天下りに支障が出る」というばかばかしいものだった。
高橋洋一氏みたいな人に一回総理大臣をやらしてみたいと思う。近々『安倍晋三回顧録』も読むつもりだ。