森永卓郎氏は1957年生まれの66歳である。東京大学卒業後、氏は日本専売公社(現JT)に入社した。当時、大蔵省主計局と専売公社主計課の関係は「隷属関係」にあった。「大蔵省の言うことには、絶対服従」だったのだ。

 予算編成の時期になると、森永氏は大蔵省主計局の前の廊下で「ずっと座っていること」が仕事だった。予算の査定をしている主査がなにかわからないことがあると、部屋のなかから「お~い、もりなが~」と叫ぶ。数秒以内に主査の前に駆け付けないと「怒鳴りつけられる」。専売公社は当時、大蔵省の“植民地”だったのである。

「自分の周りの人間が、誰しもひれ伏してくる。自分の命令には、みなが絶対服従だ。本当は、大蔵省の役人に頭を下げているのではなく、予算というお金に頭を下げているにすぎないのだが。それには気づかないのだ」

 これはあらゆる権力の支配・被支配構造の本質である。だがそんな森永氏も、「大蔵省から予算を取った後、今度は工場や支社に予算を配分する立場に変わる」。すると今度は自分が「ミニ大蔵省」になって、下に威張り散らすのだ。これまたあらゆる権力の行使に共通する階段構造である。

 関東支社の予算課員が入社一年目の森永氏に、忘年会をセットするから来ていただけないかと伺いを立てる。するとあの森永氏がこういったというのである。

「行ってもいいけどさ、女連れて来いよな」(そして当日、女性の予算課員がやってきた。それが現在の妻だという)。

 ノーパンしゃぶしゃぶ接待花盛りだった時代のことである。「MOF担」というものがあるのを知ったのもこの時代。もし森永氏が大蔵省の役人だったら、自分は接待にずぶずぶになっただろうといっている。人間は弱いものだから、と正直である。

財務省に唯一洗脳されなかった財務官僚

 高橋洋一氏の『さらば財務省! 政権交代を嗤う官僚たちとの訣別』(講談社+α文庫)と『財務省を解体せよ!』(宝島社新書)は、下手な小説を読むよりはるかに読み応えがあった。ほかにも同氏の『数字を読めない「文系バカ」が日本をダメにする』(ワック)を読んだ。

 高橋氏は、森永氏に“財務省に唯一洗脳されなかった財務官僚”といわれた稀有な人である。アメリカ占領軍に、「従順ならざる唯一の日本人」といわれた白洲次郎みたいな人である。氏は1955年生まれの68歳。

高橋洋一氏。2008年4月18日、参院財政金融委員会に参考人として出席(写真:時事)

 冒頭で触れた国の借金による財政破綻論のウソは、元大蔵(財務)官僚の高橋洋一氏によって突き崩されたのである。もう20年以上前になるか、テレビで高橋洋一氏が、次のように述べたのだ。

 国の借金が何百兆円あろうと、それだけで国家財政が破綻することはない、なぜなら負債の反対側には国の充分な資産があるからだ。あたりまえのことじゃないか、という涼しい顔で高橋氏は語っていたものだ。