かつては高齢者を狙った「回転売買」が横行

 なぜ、「長期・積立・分散」投資が個人の資産形成で有効なのでしょうか。企業業績や景気、金融政策などの変化で株価は短期的に変動します。一度に多額の資金を投資するのではなく、少額を長期的に積み立てていけば、相場の変動リスクを軽減できます。投資する銘柄や業種、地域を分散させれば、特的の業種や地域に逆風が吹いていても、他の業種や地域でカバーできる可能性もあります。

 しかし、こうした投資スタイルを個人に推奨することは、今から16年前、セゾン投信の設立当初は金融業界では「非常識」でした。そんなことをしても、金融機関はもうからないと考えられていたからです。

 バブル崩壊以降、政府は「貯蓄から投資へ」というスローガンを掲げ、繰り返し国民に対して資産運用を促してきました。1990年代後半に起きた、いわゆる「金融ビッグバン」もその流れにありました。株式の売買手数料が自由化され、インターネット証券も相次いで登場して売買手数料は一気に下がりました。

高齢者がターゲットにされた(写真:アフロ)

 株式の売買手数料でもうからなくなった証券会社は、投資信託の販売に力を注ぐようになります。ターゲットにされたのが潤沢な預貯金を持つ高齢者でした。年金で暮らす高齢者が好みそうな「毎月分配型」の投資信託を主力商品と位置づけ、3%程度の販売手数料で売り込んだのです。

 これは長期投資という観点からみると、全くナンセンスです。

 毎月分配金を支払えば、その分、投資信託の資産総額が減り基準価格は下がります。つまり、資産形成の効果が、分配金を出すたびに薄れてしまいます。分配金は高齢者にとって、毎月の年金のような感覚に近く、証券会社や銀行などの販売会社は「お孫さんにお小遣いをあげられますよ」などと言って勧誘しました。

 金融機関側は投資信託の買い替えも顧客に促しました。いわゆる「回転売買」です。短期間に買い替えさせることで手数料を稼ごうというのです。

 少額をコツコツ積み立ててもらっても、金融機関は短期的に大きな利益は得られません。毎月1万円を積み立てても、手数料が3%なら300円の収入にしかなりません。一度に100万円を投資してもらい、3万円の手数料をもらったほうが商売としては効率がいい。

 しかし、それでは個人投資家は相場変動リスクを軽減するという長期保有のメリットを得られません。とても顧客本位とは言えず、こうした金融機関の姿勢が投資に対する不信感につながりました。その結果、一向に貯蓄から投資に資金が回らない状況を招いてしまいました。