「つみたてNISA」では不十分

 当時、長期投資を本気で啓蒙していたのは、さわかみ投信くらいでした。私自身、創業者の澤上篤人さんに大きな影響を受け、長期投資こそ生活者にとって最も望ましい資産形成のあり方だと確信しました。しかし、当初は業界内で聞く耳を持たれませんでした。

リーマンショックも貯蓄から投資への流れに水を差した(写真は2008年9月16日、AP/アフロ)

 リーマン・ショックや円高も逆風でした。リーマン・ショックで株式相場は暴落し、円高で外貨建て資産は目減りしました。円安基調になるアベノミクスが始まる2012年ごろまでは、運用環境は本当に厳しい状況でした。

 本格的に状況が変化したのは、金融庁長官に森信親さんが就任した2015年前後からです。「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)」を金融機関に求めることが明確に宣言されたからです。長官に就任する前、森さんに初めてお目にかかった時、私はここぞとばかりに長期・積立・分散の意義をアピールしたのですが、森長官も同じ方向を見ておられ、心強く感じたことを今でも鮮明に覚えています。

 森長官がフィデューシャリー・デューティーの旗振り役を果たしたことで、大手金融機関を中心に高齢者に営業攻勢をかけるような売り方は徐々に影を潜めてきました。2014年に始まった株式投資も対象に含む「一般NISA」に加え、2018年には投資信託への少額積み立てを前提とした「つみたてNISA」も始まりました。少しずつですが、長期・積立・分散が望ましいという考え方が広がり出したのです。

 つみたてNISAは、資産運用の裾野を広げ、長期投資を促すうえで非常に大きな一歩でした。ただ、残念ながら本当に顧客本位になったかというと、まだ十分ではないのが実情です。

 表向きはつみたてNISAをアピールしていても、内心では「もうからない」と考えている金融機関はいまだに多いのです。どうしても短期的な利益を追いたがる傾向があります。その結果、販売手数料が高い商品やリスクが高い仕組債を売り込むことで収益を上げようという金融機関も少なからずいます。