秘書力の格差が浮き彫りになる時代に
──秘書の業務の中でも、形が決まっているものはChatGPTでもできるのでしょうか。むしろ人間より効率的に。
篠原:そう思います。事務的な仕事のほとんどは、ChatGPTをはじめとした生成AIや、他のAIを導入したツールでも代替できるでしょう。実際、現在中小企業では「バーチャルアシスタント」という、オンライン秘書を雇うケースが増えていると聞きます。スケジュール調整や書類作成などを、遠隔で請け負う仕事です。定型化された事務的な仕事を第三者にアウトソースしたい、と考えるのであれば、会社の資金力にもよりますが、こちらの方が理にかなっているのかもしれません。
──非常に高度な秘書業務ができる秘書の方の数も少ないでしょうし、そこまでの仕事能力を求めている企業も限られているのでは?
篠原:実際、当協会の会員企業数も減ってきてはいます。現在の、上場企業クラスの経営層を支える秘書は、1990年代かそれ以前に大学を卒業して秘書になったベテランばかり、というのが現実です。時代の変化と、マクロ経済環境の不安定化により、秘書という存在そのものが「誰でもできる」という風に思われてしまうようになった、という事情があります。若い世代で、優秀な秘書が少ないのです。
ただ、仕事ができる秘書にとっては、業務量が減るどころか、むしろ増えているとすら思います。ライバルが減っているのもあるでしょうが、上司のニーズと会社全体のことを考えられる秘書は、どんな職場で勤務しても重宝されるのです。
そもそも、ChatGPTの登場以前に、秘書はテクノロジーの台頭で淘汰される仕事だとずっと言われていました。オンライン会議の導入で、電話会議のセッティングの仕事がなくなる、機械翻訳で国際間の文章作成スキルが評価されなくなる、といった類いの話です。
しかし現実として、大企業の役員クラスにとって、いまだに秘書はなくてはならない存在です。おそらくですが、こうした優秀な秘書は、自分でスキルを磨いて、仕事を増やしているのでしょう。例えば、財務系の役員の仕事を売りにするために、経理関係のスキルを磨く、といったように。
今後は、秘書間の格差がどんどん拡大していくでしょう。事務的な仕事しかできない秘書は、淘汰されるのかもしれません。反対に、「潤滑油」になれる秘書は、ChatGPTすら使いこなして、上司と企業にとってなくてはならない存在になるでしょう。