米オープンAIが開発した生成AI(人工知能)「Chat(チャット)GPT」の能力と汎用性の高さに、大企業の経営者や研究者が舌を巻いている。さらなる研究開発が進めば、仕事のあり方が大きく変化するだけでなく、今の仕事の多くがAIに代替されると言われている。
「AIでなくなる仕事」と指摘されている各業界の「中の人」たちへのインタビューを通じて、人類とAIの共生を考える連載「直撃!その仕事、AIでなくなる?」。第3回は元電通のコピーライター、福田宏幸氏に話を聞いた。
福田氏は東京コピーライターズクラブの会員で、電通時代にロッテ「Fit’s」や明光義塾「やればできる子YDK」など、多数のキャンペーン制作に携わった。AIコピーライター「AICO(アイコ)」開発に携わったことでも知られている。
AICOは、プロが作った数々のコピーを学習させて「コピーの型」を覚えた上で、与えた要素から大量のコピーを生成する。AICOが作ったコピーを某広告賞に応募したところ、1000以上の作品の中で、ファイナリストの16作品に選出された実績もあるという。広告の重要な要素であるコピーの作成はAIに代替されるのか。
(湯浅 大輝:フリージャーナリスト)
第1回:ChatGPTでコールセンター消滅?協会会長「文字での対話は敗北、音声なら…」
第2回:チャットGPTでデータ入力業界は消滅?協会会長「知ったかぶりAIに頼れない」
第3回:チャットGPTでコピーライター消滅?元電通マン「天然キャラは発想のヒント」
第4回:チャットGPTで秘書消滅?メール代筆は完敗でも「社長夫人の機嫌は取れない」
Web広告の世界ではすでにAIがコピーを書いている?
——単刀直入に質問します。ChatGPTの登場により、コピーライターの仕事はなくなりますか?
福田宏幸氏(以下、敬称略):今はまだ完全に代替されるという次元にはないと思います。コピーライターの仕事は、いわゆる、「1文のキャッチコピー」を書くだけで完結するわけではありません。クライアントのニーズを読み取ったり、インタビューをしたり、コピーを書いた後にもプレゼンをして合意を取り付けたりと、さまざまな領域で人間にしかできない仕事が求められます。これらを、すべてChatGPTで完結させることは不可能でしょう。
特に、4大メディア(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)と呼ばれるマス広告の分野では、キャンペーン戦略全体を見渡して、その上で優れたコピーを書く、という技術が求められます。ChatGPTをはじめとした生成AIの能力は別にして、仕事が代替される、ということはないと思います。
一方で、Web広告の「検索連動型」広告において、生成AIが導入される可能性はあります。この種の広告の成果は「特定の期間(1週間程度)において、クリック数がどれだけ集まったか」で評価されるケースが多いので、トライ&エラーを繰り返しやすく、AIに任せやすい分野だと思います。文字数など「コピーの型」もある程度決まっていますし。
対するフィジカルな広告、4大メディアや交通機関のような媒体では、必ずしも「どれだけ見られたか」「商品の購入率」という指標だけが重要なのではなく、クライアント企業のイメージや就職人気ランキングなど、中長期的な評価も必要になります。
そうなると、「広告を見た人の心に残るコピーかどうか」が大事になるので、クライアントとの信頼関係はもちろん、コピーライターの実績や経験、物の感じ方なども重要な要素になってきます。インターネット上のデータを大量に読み込んだだけのChatGPTが、これらの能力を持てるかというと、まだそれは難しいのではないか、というのが現状です。