「社長夫人の妊娠」にはどう対応する?

──かなりいろいろな計算をされて、スケジュールを決めているのですね。

篠原:ChatGPTの予定の候補日算出は、あくまで「求められる諸条件に応じて、最適解を出す」というもの。こちらと先方の都合がつく日はここだ、という風に自動的に算出するだけです。一方、秘書の業務は、あくまでこちらにとっての優先順位(上司とお客との関係性、会社にとっての重要性)を明確にしながら、予定を決める必要があります。

 つまり、経営者が経営に集中できる環境を整備するのが秘書の本質的な仕事だ、ということです。「あの会食の予定、どうなっているのだろう」と仕事に関係のない部分で上司である経営者が悩んでいたとしたら、相当なストレスになって、パフォーマンスが低下するでしょう。「秘書に任せておけば、万事スムーズに仕事が進む」と思ってもらえるようにしなければいけません。

──上司の「傾向と対策」を頭に入れておくことが重要な仕事の一部だということでしょうか。

篠原:秘書は上司と四六時中一緒にいるので、お客様や取引先との関係性の優先順位をつけられるのだと思います。やはり、上司との信頼関係がすべて、といえる仕事なので、いかにパーソナルな情報を掴んでおけるかも重要になります。「社長は口ではイエス、といっているけど、これはノーという意味だろうな」という、非常に高度なコミュニケーションも、経験を積んでいくとできるようになっていきます。

ChatGPTなどのAIは上司の気分まで判断できない(写真:AP/アフロ)

──ただ、定型化された種類の予定であれば、現在でもChatGPTとAIを搭載したカレンダーアプリを同期させて、ある程度の優先順位を入力した上でスムーズに予定も決められます。今後さらに技術が発展すれば、AIの方が人間の秘書よりも、効率的にスケジュールを調整できるのでは。

篠原:確かに、秘書業の仕事は時代の変遷とともに、多くの部分がテクノロジーによって代替されてきました。例えば、現在は多くの経営者が直接飛行機チケットを取ってしまう場合が多いのですが、旅行ポータルサイトが普及するまでは、秘書が代理店に電話をかけて買っていたのです。

 しかし、仮にスケジュール調整において、AIがユーザーの事情まで完璧にくみ取って、優先順位をつけられるようになったとしても、プロの秘書の仕事は代替されないのではないでしょうか。というのは、「第三者の目から見た、上司の行動の最適解」をAIは判断できないからです。

 例えば、上司の奥さんが妊娠中で、来月に出産予定だったとします。上司はカレンダーアプリにお産の日や周辺日だけ休みを取って、残りは通常のスケジュールをこなす、という予定を入力するかもしれません。しかし、細かく目配りができる秘書ならば、「上司だけでなく奥様のことも気遣って、お産予定日の1週間前後は、夜自宅に帰らせた方が良い」という風に、中長期的にメリットのある判断ができます。ワークライフバランスがうまく機能しないと、会社にとっても損失ですから。