(写真:ロイター/アフロ)

(山田敏弘・国際ジャーナリスト)

 アメリカ政府が中国の通信機器大手ファーウェイの機器等をエンティティリストなどに加えて禁止措置の強化をしたのは2019年のこと。2022年12月には新製品の米国内での販売も禁止にした。その理由はもちろん、ファーウェイが中国のスパイ活動に使われるなどアメリカの安全保障にとっての脅威だと認識されているからだ。

 そんなファーウェイは欧米諸国でも次々と規制対象になり、アメリカをはじめ、イギリス、オーストラリア、カナダ、フランス、スウェーデンなどが5G機器などの禁止または導入制限をしている。6月7日には、EU(欧州連合)が加盟国である全27カ国に、5G(第5世代通信システム)などファーウェイ機器の排除義務を検討し、排除を要請していると報じられている。

「禁止」したはずのファーウェイ製品が公的インフラに

 当然ながら日本も、西側先進国と足並みを揃えてファーウェイを禁止する措置に2019年から乗り出したと報じられている。欧米で影響力の強いシンクタンクでも、日本はファーウェイを排除した国の一つだとされている

 だが実態は違っていた。日本では禁止や規制どころか、公的な通信インフラに広く組み込まれていることはあまり知られていない。

 筆者の取材によれば、国民が警戒なく利用する可能性が高い政府公認の公的な通信サービスで、ファーウェイの通信機器が広く使われていることがわかった。欧米先進国でここ何年も警戒心が高い通信機器メーカーの製品が、表面からは見ることができないところで使われているのである。

 この通信サービスは、地域広帯域移動無線アクセス(地域BWA)と呼ばれているものだ。BWAを監督する総務省の資料(https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/system/ml/area_bwa/002.pdf)によれば、BWAは、都道府県の行政区域や、市町村の行政区域などを対象としているとし、こう解説する。

「地域BWAシステムは(中略)地域の暮らし・防災情報の配信、児童・高齢者見守り、学校などのネット利用、交通機関の運行情報、商店街監視カメラなどの映像伝送、条件不利地域の解消など、地域住民のためのサービスの実現を通じて、地域の公共の福祉の増進に寄与するために用られるものです」

 つまり、日本では政府や自治体がインターネットを使った公的サービスを行っており、それを誰でも利用できように無線などのネット通信を提供して、住民が平等にサービスを受けられるようにする試みだ。インターネットにアクセスできるかどうかで利用できるサービスが限られたりすると、そこには情報格差などが生まれ不公平になってしまう。それを是正する試みがBWAであり、それ自体は素晴らしい取り組みであると言える。