夢の室温超伝導

 超伝導の応用技術はまだまだ開発途上です。MRIの他にも、社会を変える技術がたくさん実用化を待っています。

 真っ先に思いつくのはやはり送電でしょう。

 電気抵抗のある普通の金属からなる電線は、電流を流すと熱が発生します。発電所で作られた電気エネルギーは、電線を通じて家庭や工場や電車やデータセンターや仮想通貨工場などに運ばれますが、途中で一部が熱となって失われます。推定では、世界の発電量の5%ほどがこうして無駄になります。

 もしも超伝導を利用して、損失ゼロの送電システムが実現したら、膨大な燃料と莫大な費用が節約できるでしょう。

 しかし超伝導送電は(実験用途をのぞけば)実現していません。最大の難点は、超伝導材料はある温度(臨界温度)まで冷却しないと超伝導状態にならないことです。

 現在の超伝導応用製品には、冷却装置がくっついているため、冷却用のエネルギーが必要な上に、あまり小型化できません。超伝導送電システムを建造しても、そのために電力が消費されるのでは、燃料も費用も節約になりません。

 また液体窒素などの冷却材は、うかつに触れたら指が凍ります。取り扱いには熱湯と同程度の注意が要ります。子供の手の届くところに置けません。

 そういうわけで現状では、ほとんどの超伝導応用製品が、特別な施設内に設置された大型装置という形をとっていて、そこら辺で見かけることはまずないのです。

 しかし、もしも、ここで、室温で超伝導を示す材料が見つかったならば、一体どういうことになるでしょうか。

 室温超伝導を用いれば、夢の超伝導送電についに手が届きます。冷却装置が不要になった超伝導技術は、実験室から戸外に飛び出すでしょう。

 超伝導を利用すると、超強力な電磁石が作れることは実証ずみです。超強力電磁石が駆動する低消費電力のリニアモーターカーや電気自動車がそこらを走り回れば、化石燃料を轟々と燃やす飛行機は時代遅れになるでしょう。

 室温超伝導磁石があれば、電気モーターは小型化・軽量化・高効率化できます。そして電気モーターを内蔵する製品はそこら中にあります。電車、船、ドローンといった輸送機関、ハードディスクのような磁気記憶装置、家電など、すべてに技術革新が起きる可能性があります。(ただし、室温超伝導は高圧が必要なため、極端に小さくはできないかもしれません。)

 また発電機の部品も超伝導材料に置き換えれば、発電効率のアップも期待できます。エネルギー問題も環境問題も、室温超伝導が解決するかもしれません。

 室温超伝導は社会を変え産業を革新する可能性を持つのです。