ロシア国営宇宙公社ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン総裁。(2021年12月7日撮影、写真:TASS/アフロ)

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 ロシアのウクライナ侵攻は、世界に衝撃を与えました。その影響は日ごとに大きくなり、宇宙開発にもおよんでいます。

 2022年3月12日(日本時間)、ロシア国営宇宙公社ロスコスモスのドミトリー・ロゴジン総裁はSNSに、「国際宇宙ステーションを落とす」と解釈できる不穏なメッセージを投稿しました。

 いうまでもなくロシアは、国際宇宙ステーション(以後「ISS」と呼びます)の一翼どころか複数セグメントを担う最大手で、金も人も技術も多く出しています。その国営宇宙公社総裁がISSを落とすなどとほのめかしたら、これはいったい何を意味するのでしょうか。ISSの将来はどうなるのでしょうか。

 今回はISSの将来を考えるため、その基本から解説しましょう。ISSの問題を理解するためには、ISSについての最低限の科学知識が必要です。

なぜ人工衛星は落ちないか

 まず、「なぜ人工衛星は落ちないのか」というところから始めましょう。「そこから?」と思うかたは、どうぞ飛ばして次の節に進んでください。けれども次のように答えちゃったかたや、次の答えのどこがおかしいのか分からないかたは、飛ばさずにお読みいただけると後の理解がスムーズかと思います。

「人工衛星が落ちないのは、重力の届かない高さを飛んでいるから」

 ←違います。人工衛星にも地球の重力はおよんでいます。

「人工衛星が落ちないのは、常にロケット噴射しているから」

 ←違います。ロケット噴射などで常に支えなくても、人工衛星は地表にぶつかりません。

「物を落下させるのは空気だから」

 ←もしかしてアリストテレス先生?! 畏れながら、今の時代にはそのように考えません。

 では今の時代はどう考えるかというと、ニュートンの重力の法則にしたがって考えます。