中国が2020年に打ち上げた衛星測位システム「北斗3号」。位値の測定やナビゲーション、時刻配信などのサービスを全世界に提供している(写真:ロイター/アフロ)

 インターネット衣料品通販ZOZOを創業した前澤友作氏は今年12月に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する。NTTとスカパーは、人工衛星を使ったデータセンターを宇宙空間につくる構想を明らかにした。さらに、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏が率いる宇宙開発企業の米ブルーオリジンは、宇宙船「ニューシェパード」に乗客を乗せた宇宙飛行を予定している。

 情報通信、軍事、ビジネス、さらには観光まで、人間の活動範囲は宇宙空間に広がり続けているが、宇宙開発や宇宙利用はどこまで進んでいるのだろうか。

 宇宙空間の覇権を握るのは米国か中国か、途上国の衛星打ち上げを請け負う中国の野望、争いが起きそうな宇宙の天然資源、宇宙利用のルール形成、宇宙における民間ビジネスの可能性について──。『中国が宇宙を支配する日 宇宙安保の現代史』の著者・青木節子氏(宇宙法学者・慶應義塾大学大学院法務研究科教授)に話を聞いた。(聞き手:鈴木皓子 シード・プランニング研究員)

(※記事の最後に青木節子氏の動画インタビューが掲載されているので是非ご覧ください)

──本書は『中国が宇宙を支配する日 一つの国が広大な宇宙を支配する』という衝撃的なタイトルです。「宇宙を支配する」というのはどのような意味なのでしょうか。

青木節子氏(以下、青木):宇宙については、「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」のサンプルを持ち帰ったなど、未知なるフロンティアを開拓する夢やロマンがしばしば強調されます。しかし、これは宇宙活動のほんの一端に過ぎません。

 これまでも、通信、リモートセンシング(地球観測)、測位航法など様々な衛星データを利用して、世界の人々の生活を便利で安全、豊かなものにしてきました。宇宙ビジネスを活発に進めて富を獲得するということも宇宙の大きな役割です。軍事目的での利用も、常に宇宙活動の中心であり続けています。宇宙は、富と安全、安全保障を獲得するために非常に有益な場であると言えます。

「宇宙を支配する」という表現は、宇宙空間を利用して地上での富と安全、安全保障を確保する最強の力を持つこと、他国が宇宙空間を利用して同様の力を持つことを阻止する能力を備えること、という意味です。

 そして「宇宙」は宇宙空間だけで完結するわけではありません。衛星、地上局、その間を繋ぐ通信回線から構成されています。衛星からのデータ取得にはコンピュータの制御が大きく関わっているという点では、サイバー固有の問題との類似性もあります。

 したがって、宇宙大国であるためには、軍事だけではなく、民生・商用システムにとっても、サイバー攻撃に対して強いシステムを作り上げる必要があります。この宇宙とサイバーの両方で世界の覇権を握ることができる可能性があるのは今のところ、米国と中国に限られると言えるでしょう。中国はその方向に力強く着実に歩みを進めています。