図1:天の川銀河中心のブラックホールの画像。(クレジット:EHT Collaboration)

(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)

 2022年5月12日13時(協定世界時)、イベント・ホライズン・テレスコープ・コラボレーションが世界同時記者発表を行ないました。2019年にM87*という超巨大ブラックホールの画像を発表したグループが、今度は天の川銀河の超巨大ブラックホールの撮像に成功したというのです。

 全世界で同時に(時刻を指定して)公開された画像(図1)には、妖しく輝く巨大なドーナツ形が写っていました。M87*に加えて2個目のドーナツです。

 どうも超巨大ブラックホールを電波で撮像すると、ドーナツ形に見えるようです。いったいどうしてでしょうか。このドーナツ形に見えている物体の正体はいったい何でしょうか。

 この観測を行なったイベント・ホライズン・テレスコープ・コラボレーションについては、野辺山宇宙電波観測所長の立松健一教授の記事がありますので、本記事では超巨大ドーナツの物理を中心に解説いたしましょう。

 ところで一方、先日6月30日には、国立天文台の三好真助教らのグループが、M87*の観測データを再解析した結果、ドーナツ形は現われなかったという論文を発表しました。はたしてドーナツは見えるのでしょうか、見えないのでしょうか。

いったい何を見たの?

 私たちは「天の川銀河」というひとつの銀河に住んでいます。私たちの太陽系は明るい中心部から2万6000光年ほど離れています。

 銀河というものは、中心に「超巨大ブラックホール」がいるものです。天の川銀河の中心には、「射手(いて)座A*」あるいは「Sgr A*」という名の、太陽の400万倍の質量を持つ超巨大ブラックホールが鎮座しています。

 ちなみに「Sgr A*」は「サジテリウス・エー・スター」、あるいはもっと短く「サジ・エー・スター」と読み*1、「射手座の電波天体A」を意味します。電波天体には目立つ順にA、B、C、・・・と記号が付けられるのですが、これは特に活動的な天体だったので、さらに「*」が付けられました。

 ブラックホールとは、光さえも脱出できないほど強大な重力を持ち、真っ黒に見える天体です。

 2019年まで実際に見た人はいなかったので、「真っ黒に見える」というのは想像だったのですが、イベント・ホライズン・テレスコープによってM87*が撮像されてからは、自信を持って「真っ黒に見える」あるいは「ドーナツの穴のように見える」といえるようになりました。