南米チリのアルマ望遠鏡(資料写真、2022年5月18日、写真:ロイター/アフロ)

 2019年に巨大ブラックホールの撮影画像を発表した国際共同研究プロジェクト「EHT」(イベント・ホライズン・テレスコープ)。2022年5月12日、EHTは新たなブラックホールの映像を公表した。今回撮影されたのは、私たちの太陽系が属する天の川銀河の中心にある「いて座A*(エー・スター)」。野辺山宇宙電波観測所長の立松健一氏は、この映像に「幸せを感じてほしい」と言う。EHTはなぜ2回の撮影に成功できたのか? 立松氏が言う「幸せ」の意味とは?

(立松 健一:野辺山宇宙電波観測所長)

 近頃、痛ましい子供の虐待のニュースや、ロシアのウクライナ侵攻による悲惨な映像を目にする機会が増え、皆さん心を痛めていると思います。1日も早い解決を望みつつ、本当に暗い気持ちになってしまいますね。でも先頃、電波天文学の世界から、奇跡のような嬉しいニュースが飛び込んできました。「天の川銀河中心のいて座A*(エー・スター)ブラックホールの撮影に成功」です。

 3年前の人類初のブラックホールの撮影成功と、今回の映像から何が見えるのか。天文学者の私から見ると、我々は、案外、奇跡的に幸せな世界に生きているのではないかと感じることがしばしばあります。人間って、ちょっとした幸せ感を持つことも大事ですよね。この記事で、ちょっとした幸せを感じていただければと思います。

2つの天体を撮影できた我々の幸運

 2019年春、2022年春と、わずか3年のインターバルで、ブラックホール撮像のニュースが駆け巡りました。画像が似通っているので、「前にも似たようなものを見たな」と思う人も多いかもしれませんが、私から見れば、約2000倍も大きさや質量が違うものが、ほとんど同じように見えるということは、それ自体、非常に貴重な事実です。2000倍というと、1円玉と観覧車が同じように見えるということです。

 3年前に、世界で最初に撮像されたM87銀河の中心にあるブラックホールは、今回撮影された(我々の住む)天の川銀河中心のブラックホールに比べて約2000倍重たいものでした。ブラックホールの大きさは質量に比例するので、M87銀河のブラックホールのほうが約2000倍大きいということです。

 M87は、知る人は知っているように、ウルトラマンの生まれ故郷とされた銀河です。テレビではミスによりM78と数字が逆になってしまったようですが、ここではウルトラマン銀河M87と呼びましょう。そして、偶然ですが、M87銀河は、天の川銀河中心に比べて約2000倍遠くにあるのに、大きさの違いがそれを打ち消して、見かけ上の大きさが非常に似通っていたのです。