2020年が終わろうとしている。今年は新型コロナウイルスに明け暮れた1年となってしまったが、天文学の世界ではどんな動きがあったのか。野辺山宇宙電波観測所(長野・南牧村)所長の立松健一氏(国立天文台・教授)が、今年のノーベル賞への感想と、いま求められている新しい科学理論について語る。(JBpress)
超巨大ブラックホールを最初に見つけたのは日本人だった!
皆さんと同じく、ここ野辺山観測所も新型コロナで苦悩する1年でした。非常事態宣言以降、一般の方の見学が一時中断され、また前回のコラム(「野辺山天文台、『もうすぐ星が生まれる場所』を発見 閉鎖危機の中でまたも成し遂げた偉業」2020年8月7日)で書いたように、予算縮小に伴う運営体制の縮小で、常駐職員は3年前の4割減の24名となり、研究者はついに私ひとりとなりました。それでも望遠鏡を動かし、大学の研究者のみなさんに観測に使っていただいています。年末年始以外の毎日公開している一般見学も現在は再開しています。
そんな中、10月6日夜、大きなニュースが飛び込んできました。ブラックホールでノーベル賞! です(ロジャー・ペンローズ氏、ラインハルト・ゲンツェル氏、アンドレア・ゲッズ氏の3氏が受賞)。大変おめでたいことですし、世界中のより多くの皆さんが、ブラックホールから宇宙の謎に興味を持っていただける、とてもうれしい出来事です。
しかし、ニュースを見て私はちょっとがっかりしました。受賞対象の1つは、超巨大ブラックホールの発見! えぇ!? だったら私の先輩の中井直正さんがピッタリでは?
中井直正さん(元野辺山宇宙電波観測所長、現関西学院大学教授)は、1992年に「野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡」を使って観測中、毎秒1000キロ(マッハ3000)のものすごい速度で運動しているメーザー電波源を、NGC4258という銀河の中心に見つけました。メーザーというのは、レーザーの電波版です。その時「こんな変なものを見つけたけど、なんだと思う?」と中井さんが言っていたのを覚えています。