相対性理論や量子力学のおかげで我々は幸せな世界に生きている?

 ちょっと古い話ですが、去年(2021年)の夏、東京オリンピックで、日本最年少の金メダリストになった、スケートボードの西矢椛(にしや・もみじ)選手がインタビューで語った「ラスカルの話をしていました」の「ラスカル」は何? 誰? という話題がネットで話題になりました。ヒップホップMCのディジー・ラスカルではという推測もありましたが、正解は、昔懐かしい「あらいぐまラスカル」の主題歌だったそうです。天文学の世界で「ラスカル」というと、非常に面白い研究をしているジャック・ラスカル(Jacques Laskar、フランス人天文学者)という研究者がいます。ここで、ラスカルさんの研究を紹介しましょう。

 万有引力を発見したニュートンは、「太陽系は不安定である」という驚きの記述をしています[5]。あまり知られてはいないですが、実は太陽系の安定性というのは、それから数世紀にわたり、専門家の間で熱い議論となってきました。

 ラスカルさんの研究[6]によると、太陽系は混とん状態(専門用語でカオス状態)にあり、進化(将来の姿)を確定的に数値計算することはできないそうです。彼の示した驚くべき結果では、50億年以内に、惑星同士の重力的散乱や衝突によって太陽系がぐちゃぐちゃに壊れてしまう可能性があるということです。そしてその確率は結構高くて50億年で1%程度ということです。小さいけど、無視できない値ですね。

 さらに驚くべきことは、計算に相対性理論を使わずにニュートン力学だけで計算すると、50億年以内に壊れる確率が60%にも上るということです。太陽系は誕生してから46億年。まだ太陽系が存続していることは、相対性理論が正しいことの間接的証明になっているのですね。逆に言えば、相対性理論のおかげで我々の太陽系が(壊れずに)存在しており、我々は地球に生きることができているわけです。いやー、相対性理論があって本当に良かったですね。なければ、人類が誕生する昔に、太陽系がぐしゃぐしゃに壊れてしまっているところでした。

 ラスカルさんの研究については、昨年残念ながらなくなってしまったノーベル賞学者スティーブン・ワインバーグ(アメリカ人物理学者、1979年物理学賞受賞)の著書『科学の発見』に紹介されています[7]。