(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
先日2022年9月16日(日本時間)、イグ・ノーベル賞の発表が行なわれました。
「人々を笑わせ、それから考えさせる業績」に対して授与されるイグ・ノーベル賞は、1991年、雑誌編集者で会社経営者(当時)のマーク・エイブラハムズ氏(1956-)によって創設されました。
「イグ・ノーベル(Ig Nobel)」は「下品な」とか「不名誉な」を意味する「ignoble」と「ノーベル(Nobel)賞」をかけた駄洒落で、つまり「下品なノーベル賞」あるいは「不名誉なノーベル賞」を意味します。
イグ・ノーベル賞の発表があると、もう秋か、と感じます。2022年も、巨大なヘラジカ・ダミーやらアヒルの艦隊やら、真面目な研究からシモネタまで、10本の研究成果が並びました。日本人研究者も安定の連続受賞です。
本記事では日本人受賞者に限らず、10件の受賞研究全てを、原論文にあたって紹介いたします。すると不思議なことに、各分野の先端研究がどうなっているのか、なんだか分かった気がしてきます。
動悸が同期で恋のシンクロ!
イグ・ノーベル循環器学賞
受賞者:エリスカ・プロハースコヴァ、エリオ・シャクシ、フリーデリケ・ベーレンス、ダニエル・リンズ、マリスカ・クレト(チェコ、オランダ、UK、スウェーデン、アルバ)
受賞理由:最初のデートで、互いに魅力を感じているかどうかは、鼓動が同期するかで判定できることの発見*1
142人71組の男女に、視線や心拍や皮膚電導度の測定装置を取り付けて、模擬デートさせた実験です。
被験者の表情や笑い声と、相手に感じている魅力との間には、ほとんど相関が見つかりませんでした。そのかわり、互いに魅力を感じると、二人の鼓動が同期することが明らかになったといいます。
これが本当だとしたら、一体どういうメカニズムで私の心臓はあなたの鼓動と同期されるのでしょうか。受賞者らは、無意識のうちに筋肉運動を真似るのではないかと提案していますが、あまり明確な答えは出されていません。