君が甲なら私は乙
イグ・ノーベル文学賞
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どうして法律文書が必要以上に理解しにくいのかというと、そのわけはこの受賞論文のタイトルで全部説明されています。
『法律の言葉が処理しにくい理由は、専門概念ではなく、貧弱な作文能力に由来する*2』
法律文書など1000万語を解析し、法律文書の特徴を調べたところ、使用頻度の低い言い回しや節の入れ子、受動態などが頻繁に使われていました。著者らによれば、法律文書が難解なのは、読むのに専門的な知識が必要だからではなく、文の構造が複雑だからです。法律文からそういう不必要に複雑な言い回しを排除すれば、大変社会のためになるであろう、とのことです。うん、知ってた。
豆知識:サソリは危険を感じると尻尾を切って逃げるが、数カ月後に便秘で死ぬ
イグ・ノーベル生物学賞
受賞者:ソリマリー・ガルシア-ヘルナンデス、グラウコ・マチャド(ブラジル、コロンビア)
受賞理由:サソリの便秘の交尾行動への影響の研究*3
アナンテリス属のサソリは、トカゲと同じく、危険を感じると尻尾を「自切」して逃げます。この時、尻尾と一緒に、肛門を含む消化器官の末端を失うため、排泄困難、つまり便秘に陥り、数カ月で死に至ります。
ということは、危機に際したサソリは、尻尾をつけたまま逃げることを選ぶか、尻尾を失って不便な体になってでも逃げやすい方を選ぶか、という進化上の選択をしていることになります。これは生物学的に興味のある現象です。
著者らは、アナンテリス属のサソリの雄や雌に、自切させたりさせなかったり、餌を過剰に与えて糞を体内に溜めさせたり溜めさせなかったりして、運動性能などを調べました。すると尻尾を切っても、しばらくの間は、運動性能に変化はみられませんでした。長時間たつと体が弱ってきて、雄は交尾能力が低下しますが、数カ月かかるので、さほど生殖に不利にはならないようです。一方、自切した雌は子孫の数が35%も減りました。
それにしても、サソリは自切すると便秘で死ぬという事実も、数カ月間も糞をしなくても生きられるという事実も、両方ともインパクトがあります。イグ・ノーベル賞はこれまで肛門にまつわる数々の研究に与えられてきましたが、また実績がひとつ増えました。
ちょっとスーパーカップ買ってきます
イグ・ノーベル医学賞
受賞者:マルチン・ヤシンスキ、マルティナ・マチェイェフスカ、アンナ・ブロジアック、ミハウ・ゴルカ、カミラ・スクヴィエラフスカ、ヴィエスワフ・イェンジェイチャク、アグニェシュカ・トマシェフスカ、グジェゴジュ・バサク、エミリアン・スナルスキ(ポーランド)
受賞理由:化学療法を受ける患者は、アイスクリームで副作用を軽くできるという発見*4
がん治療の一環として、「メルファラン」という薬品を用いる化学療法が行なわれることがあります。この化学療法の副作用として、粘膜炎が口の中にできます。誰でも経験する通り、口腔粘膜炎はクオリティ・オブ・ライフを著しく悪化させます。口腔粘膜炎には通常、氷のかけらやかたまりを口に含む「クライオセラピー」が効き目があるとされますが、これは患者に不評です。
この報告は、クライオセラピーとしてアイスクリームを用いた結果を調べたところ、ただの氷よりも粘膜炎を抑える効果が見られたというものです。
これは朗報ですね。化学療法が原因でない普通の口腔粘膜炎にも効き目があるかどうか、論文には記載がありませんが、今度粘膜炎ができたらアイスクリームを買ってきます。