ライアーゲーム理論
イグ・ノーベル平和賞
受賞者:ジュンフイ・ウー、サボルチ・サーマドー、パット・バークレイ、ビアンカ・ビアスマ、テレンス・ドレス・クルズ、セルジオ・ロ・イアコノ、アニカ・ニーパー、キム・ピーターズ、ヴォイテク・プシェピオルカ、レオ、ティオキン、ポール・ヴァン・ランゲ(中国、ハンガリー、カナダ、オランダ、UK、イタリア、オーストラリア、スイス、アメリカ)
受賞理由:うわさ話をする際に、真実をいうべきか嘘をつくべきかを決めるアルゴリズムの開発*9
ゲーム理論を人間に適用した真面目な研究です。
ゲーム理論は虫や植物、けものなどの振る舞いを説明するのに大変有効で、広く成功していることは御存じのとおりです。しかし人間の複雑な行動は、血縁個体を助けるとか、生殖可能性を高めるといった単純な原理では説明できず、違ったアプローチが必要です。
そこで、このごろ注目されているのが「相互依存適応度(fitness interdependence)」という概念です。たとえていえば「暮らし良さ」みたいな感じでしょうか。社会の中の人間がとるいろいろな行動は、その社会における自分の相互依存適応度を上げるという目的があるのだ、と考えるアプローチです。
この研究は、2人の会話で、そこにいない3番目の人間を話題にする状況を分析したものです。うわさ話をする人間は、3番目の人間について正直な情報を提供するべきでしょうか、それとも嘘をつくべきでしょうか。どちらの戦略をとるべきかは、その3人からなる小規模な社会において、うわさ話を流す人の相互依存適応度が上がるか下がるかで決まる、という分析です。
この研究の前提は、嘘で自分の相互依存適応度が上がるならためらわずに嘘をつけ、ということなんですが、まあゲーム理論とはそういうものですよね。
成功にはわけがある、とは限らない
イグ・ノーベル経済学賞
受賞者:アレッサンドロ・プルチーノ、アレッシオ・エマヌエーレ・ビオンド、アンドレア・ラピサルダ(イタリア)
受賞理由:どうして成功するのは最も優れた人ではなく最もラッキーな人なのか、を数学的に説明*10
(経済的に)成功する人は、才能だとか知性だとか努力だとか意志力などが優れている、という考えは、一般に広く行き渡っているでしょう。一方、成功には運の要素もあるでしょう。
知的能力などの、人々の能力の分布は「正規分布」となります。つまり、能力が平均値くらいの人々がほとんどを占め、能力の高い人や、逆に低い人は、ちょっぴりを占めます。
ところが一方、富の分布は「べき形分布」になり、金持ちはごく少数ですが、貧しい層は圧倒的に多数を占めます。べき形分布は、確率的に起きるある種の現象に見られる分布です。
どうしてこのような不一致が見られるのでしょうか。もしも経済的成功が能力によるものならば、富の分布も正規分布になる気がします。成功には能力と運のどちらが重要なのでしょう。
この研究は、能力と運によって点が得られるゲームのシミュレーションを行ない、現実の富の分布を再現するような条件を調べたものです。結論は、経済的な成功を決めるのは、その人の才能や知性や能力などではなく、運だったということです。
これは、はなはだ辛辣な研究ですね。イグ・ノーベル賞の風刺的な面の現れた受賞だと思います。