(大橋 弘昌:米国ニューヨーク州弁護士、外国法事務弁護士)
ジャニーズ性加害問題についての報道が続いているが、それらの多くは「ジャニーズ事務所は性加害を認めるのか」といったレベルにとどまっているようだ。しかし、それでよいのだろうか。
米国で弁護士として仕事をする者として、「もし米国だったら……」とつい考えてしまう。また、読者の皆さんにも米国のスタンダードを知ってほしいという思いもある。そこで、米国における過去の事件を基に、議論を深めてみよう。
真っ先に頭に浮かんだのは、ペンシルバニア州立大学のアメリカンフットボール部のアシスタントコーチだったジェリー・サンダスキーが、1994年頃から15年以上にわたって、少なくとも10人の少年を性的虐待していたという事件だ。
サンダスキー自らが設立した恵まれない子供を助け、親をサポートするNPOを通じて少年たちと知り合い、様々な誘い、例えばペンシルバニア州立大学のフットボールの試合への招待チケットなどをちらつかせ、自宅や同大学キャンパスのシャワー室などでわいせつ行為に及んでいたのだ。
被害に遭った少年の年令は8歳から17歳。サンダスキーは裁判において、少年たちと一緒にシャワーを浴びたことなどは認めたものの、わいせつ行為については否定した。しかし、その否定の主張は通らず、2012年にサンダスキーは最短30年、最長60年の懲役という判決を受けている。
これはサンダスキーの年令を踏まえると実質的に終身刑で、今も刑務所に服役している。
なお、これらの裁判において、当時、子供であった被害者たちは、本人が自らの名前をオープンにした人もいるが、犠牲者No.1、No.2と番号が呼び名になっている。報道においても匿名で報じられていて実名は報じられていない。
次に、サンダスキーの周辺にいた人たちの中に罪に問われた人はいたのだろうか。この点、裁判所の判断は社会的地位を忖度しない厳しいものとなった。