松崎氏は穏やかな表情で答えた。
「いやー、このまま突っ走っても国鉄は必ず潰れるよ。そしたら、かあちゃんや子供が腹を空かす。泣く子供の前で何が断固反対ですか。ま、それよりも僕の若い頃の機関助手だった頃の話でもしましょうや」
そして、つるッと剥げ上がった頭を指先で掻きながら、黒ぶち眼鏡をただした。なかなかの人たらしだ。
「人たらし」だった松崎明
松崎明、通称“松っつあん”。1956年国鉄入社。尾久機関区に配属後、動力車労働組合に入る。1963年、新左翼の革マル派副議長となる。1973年動労東京地方本部委員長、1985年中央本部委員長。
「私も今日の取材には松崎さんがどんな人なのかを知りたくて来ました。この後、杉浦(喬也)総裁にもお会いしますが」
そう言うと、彼はゆで卵を剝いたようなつるりとした顔を崩した。
「ほ~お、バリバリのエリートの偉いさんと比べられたらかなわんねえ」
「僕も本採用になるまでは大変だったよ。毎日毎日SLの釜炊きよ。あの機関士の横で石炭を放り込む奴ね。煤煙を吸い込みながら、石炭を炉に放り続ける。ぐずぐずしていると機関士に怒鳴られるし、暑い、苦しい、顔は煤だらけ、安月給。それに動労も上下関係が厳しくて右翼的体質だったね。仕事を上がって風呂入って一杯やるのだけが楽しみ。みんなそうなんだろうけどね」