国鉄の経営は実際火の車だった。トラック輸送の飛躍的発展や航空業界の発展で、それまで稼ぎ頭だった貨物輸送の収益がどんどん落ち込んでいた。しかし一方の現場では、国有鉄道という親方日の丸的な体質は変わらなかったのだ。

 JRのOBに話を聞いた。

「当時の国鉄は42万人もいた。組合員たちは本当に仕事をしなかった。朝出てきて2時間ぐらい勤務したらもうすることが無い。時間を持て余した者はピンポンや草取りをしていた。それでも毎月の給料は保障されている。いたたまれず人員削減を打ち出すと“合理化反対!”と、狼煙をあげる」

 これが、国鉄分割民営化をより現実的なものにした要因だった。

 一方で闘いは続いた。民営化に反対する中核派の学生や労働者による総武線浅草橋駅占拠事件や首都圏や京阪神地区の同時多発ゲリラ事件などが次々に起こった。

 民営化は1986年の国政選挙で事実上決まった。

「気楽に話そうや」

 そこで意外なことが起こった。鬼と呼ばれた松崎明委員長率いる動労が民営化に協力するというのだ。どういう経緯があったのか?

 そこで、ある週刊誌の企画で動労中央本部の委員長と国鉄総裁を並べてグラビアに掲載しようということになり、私は動労本部にいる松崎氏を訪ねた。

 鬼の松崎委員長は入り口近くの部屋に笑顔で座っていた。彼は固い態度の私を見るなり「まッ! 気楽に話そうや」と破顔した。色白のテカテカ顔に縁の太い黒ぶち眼鏡。

 私は開口一番に尋ねた。

「鬼の動労と呼ばれているのに、なぜ民営化に賛成なのですか? しかも御用組合の鉄労と組んでまで」

「革マル派副議長」といわれていた国鉄動力車労働組合中央本部の松崎明委員長(写真:橋本 昇)
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