鉄道の基本スタイルは変わっていない
鳥塚氏:いすみ鉄道が「ムーミン列車」などのイベントでお客様を呼ぶようになると、今度は地元の一部の人が反発するのですね。
鉄道に乗ることを楽しみにして大多喜に多くのお客様がやってくるようになると、「大多喜が本多忠勝ゆかりの城下町であることを知らずに来たのか」と言い出す人が現れる。けれども、お客様は「私たちは、『ムーミン列車』に乗りにきたのです」となって、そこに対立が生まれました。
鉄道がせっかく新規顧客を開拓したのに、もてなすことをしないで、何のための観光協会なのだろうと思いました。
私はいすみ鉄道に対する認識を「お客様が乗っていないから不要の鉄道である」から、「お客様が乗っていなくても必要な鉄道である」に変えました。けれども、鉄道の基本的なスタイルは、別に何も変わっていません。
──つまり、鉄道にはさまざまな価値が備わっているのだということを、広く知らしめてみせた。
鳥塚氏:私がいすみ鉄道社長を退任した最後の時も、数字だけを見れば年2000万円くらいの赤字でした。
役所に出向いて「すみません。今期も赤字でした」と報告したら、いすみ市の市長から「そんなことは気にするな」と言って頂いた。「あれほど安全・正確に走っているいすみ鉄道は、いすみ市にも必要なのだ」と。それを聞いて、私のいすみ鉄道での仕事は終わったのかなと感じました。