本当に鉄道を残したいのか?

──お金に動きが生まれる。

鳥塚氏:ところが、2009年に私がいすみ鉄道の社長に就任した時には、誰もこの考え方を理解してくれませんでした。

 いすみ鉄道は房総半島の山の中を走っている。「なぜ、こんな場所に観光需要があるのだ?」というわけです。

 それから、沿線の大多喜町は本多忠勝由来の城下町で、もとから観光需要がある。だから観光業は町がやる、鉄道会社が観光業をやる必要はない、という考え方にも遭遇しました。

──以前、「道の駅」の支配人にお話を伺ったことがあります。「道の駅」は売上至上主義ではなく、いろいろな人が運営に参画していて、いろいろな意見が寄せられる。「口を挟む」というやつです。日本の役所主導の仕事には、セクショナリズムであるとか、横槍ばかりが入る「縄張り主義」のようなものが横行しているように感じます。

鳥塚氏:私がいすみ鉄道に赴任して、最初に行ったプロジェクトとして記録されているのは、車両に「ムーミン」のステッカーを貼って運転した「ムーミン列車」ですが、その前に地元の人と話をして、「本当に鉄道を残したいのですか?」ということを議題にしました。

鳥塚氏がいすみ鉄道で仕掛けたムーミン列車

 沿線の大多喜町には高校があって、当然、大多喜の人は鉄道を残したいと考えている。けれども、同じく沿線のいすみ市という地域にとっては、いすみ鉄道は必ずしも必要ではない。いすみ市の人が見ている方向は東京であるわけです。

 同じいすみ市にあるJRの大原駅で東京に向かう特急「わかしお」への接続が便利になれば、それで良い。自分が住んでいるよりも内陸にある大多喜や上総中野は、自分にはあまり関係がないという考え方です。