いま、ベンチャー企業や製パン大手が加工する原料のコオロギは養殖されたもので、安全性は十分に確保されているはずだ。そうでなければ、商売にならない。

キルギスでも食用目的で、起業家がコオロギの養殖に乗り出している。2021年6月撮影(写真:ロイター/アフロ)

 それに大人になって出た海外で、コオロギの仲間を食べたことがある。タイの北部の街の夜市で生きたままのそれを素揚げにして、スナック菓子のように摘んで食べた。サクサクした食感で酒に合うと思った。因みに、タイではタガメも食べる。もっとも、タガメと言ったところでわかる若い日本人も少なくなったはずだ。

増え続ける世界の人口、食糧はいつか必ず不足する

 そんな環境で育った私が、大学の進学と同時に上京したあとのことだ。出身を長野と知ると、しつこく浴びせられた言葉があった。

「長野って、虫、食うんだろ?」

 まるで文化の違いというよりも、文化が未開であるように蔑み、異人種として気持ち悪がるような視線を伴う言い回しだった。差別と言ってもいいかも知れない。

 徳島の高校にクレームを寄せたり、製パン大手を誹謗したりする人たちも同じ感覚で発言していることがよくわかる。多様性などというものは、そこにはない。

 ベンチャー企業や製パン大手が見据えるのは、昨年に世界人口が80億人を超えたように、増え続ける人口に伴う将来の食料不足の問題、それもタンパク源の確保に備えてのものだ。すでに2013年には、国連食料農業機関(FOA)が、「食用昆虫─食料と飼料の安全保障に向けた将来の展望─」と題する報告書を公表して、食料問題の解決策のひとつに、昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨している。