尹錫悦大統領(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 目下、日韓間の最大の懸案になっている元徴用工に対する賠償問題が大きく進展することになりそうだ。

 韓国の大法院(最高裁)では、三菱重工・日本製鉄に元徴用工に対して賠償金支払いを求める判決が確定しているが、日本側は徴用工問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場を堅持、これに応じていない。

 日韓関係を深めたい尹錫悦大統領にとって、この問題の解決は絶対に避けられない課題だった。そこで尹大統領が示した案が、政府傘下の公益法人「日帝強制動員被害者支援財団」が韓国企業の寄付を募って財源を調達し、日本企業を相手に勝訴確定判決を受けた被害者に賠償金相当額を支払うというものだった。

 これに対して元徴用工らは、日本側の謝罪と被告企業の賠償への参加を強く要求した。韓国政府も「日帝強制動員被害者支援財団」が最初に賠償金(判決金)を弁済するが、日本企業にも自発的に財団に寄付する形での「誠意ある対応」を求めてきた。だが、日本政府の「徴用工問題はすでに解決済み」という立場からは、絶対に応じることはできない。ここが最大の焦点になっていた。

 この問題が、3月に入って一気に動き出した。

日本の“被告企業”は賠償に参加せず

 ハンギョレ新聞は、3月3日、<日本政府、被告企業は「賠償に参加しない」方針固めたもよう>と題する記事を掲載、「日本政府は強制動員被告企業(三菱重工業、日本製鉄)が被害賠償には参加しないという結論を下したと伝えられた」と伝えた。

 そのため「韓国政府は日本との交渉を続けるかどうかについて頭を悩ませている」と報じている。また日本企業が「日帝強制動員被害者支援財団」の名称に強い拒否感を示していることも指摘している。