米海軍によって回収される中国偵察気球の残骸。日本でも撃墜要件が緩和されたが、果たしてその実効性は……(写真:Mc1 Tyler Thompson/Us Navy/Planet Pix/ZUMA Press/アフロ)

(河野克俊:前統合幕僚長)

降ってわいた気球騒ぎ

 気球が日米中をざわつかせている。事の発端は2月4日のことだった。

 米空軍戦闘機F-22が「中国の偵察気球」(高度約1万8000メートル~2万メートルを飛行/全長約60メートル)をサウスカロライナ州沿岸で撃墜した。

 続く9日にはアラスカ北部沿岸で、11日にはカナダ上空で、F-22は「高高度物体」を撃墜。さらに12日には、F-16が「空中物体」をヒューロン湖上空で撃墜している。

 米紙ワシントンポスト(電子版)は14日、最初の気球は中国南部・海南島から打ち上げられた直後から、米軍と米情報機関によって約1週間にわたり追跡し続けられていたと報じた。太平洋を飛行する気球を追跡する過程で、気球から発信される電波を米軍側が傍受・解析し、偵察目的だと断定したのだろう。

 あとの3件は、偵察活動とまでは断定していないようだ。

 そしてこの事態の発覚後、我が国領空内においても過去に気球の飛行があったらしいということが明らかになってきた。令和元年(2019年)11月20日に鹿児島県薩摩川内市上空で、令和2年(2020年)6月17日に宮城県仙台市上空で、令和3年(2021年)9月3日に青森県八戸市上空で目撃されていた飛行物体だ。

 いずれもその当時は正体がはっきりとしていなかったものだ。だが政府は、今回の事案を受けた分析の結果、当該飛行物体が中国の無人偵察用気球であることが強く推定されると結論付けた。米国と子細な情報およびデータを共有した結果だろう。

 日本政府は遅ればせながら、外交ルートを通じて、中国政府に事実関係の確認を求めた。そして今後このような事態が生じないよう強く求めるとともに、外国の無人偵察用気球等による領空侵犯は断じて受け入れられない旨を申し入れている。

 降ってわいたような騒ぎだが、中国による気球を使った偵察は約5年前から始まったとされる。