文科省によると、政府公式の地震予測は1996年以降、東日本大震災までに130回以上発表していたが、一般に公表する前に電力会社に見せたのは2011年3月3日が初めてだったという。もし、文科省がそんな極めて変則的な手順を踏まずに、当初予定通り3月9日に公表していれば、島崎さんの言うように助かった命は多かったに違いない。

3・11に間に合わなかった失敗の経緯、検証を

 岡村さんは、社会に周知する直前に地震が発生してしまったことについて、「このようなことを繰り返さないためにも、巨大地震に関する研究成果はできるだけ早く社会へ伝える必要がある」と述べている*8

 貞観地震の危険性を早く社会に伝えることに失敗した過程については、まだ詳しくわかっていないことも多い。

・文科省は、公開前になぜ東電に先に報告書を見せ、書き換えにまで応じたのか。東電がそこまでの影響力を持っていたのはなぜか

・報告書の書き換えや専門家への根回しなどの経緯を知っていた経産省が、東電に対し何も指導しなかったのはなぜか

・岡村さん以外の研究者たちは、どうして東電の根回しに応じてしまっていたのか

 失敗を繰り返さないためには、東日本大震災前の経緯を、きちんと検証しておく必要があるだろう。

*8 岡村行信「西暦869年貞観津波の復元と東北地方太平洋沖地震の教訓 : 古地震研究の重要性と研究成果の社会への周知の課題」Synthesiology 5(4):2012.11 p.234-242