危険性の公表の遅れと改変、東京電力の暗躍

 3月の公表予定が4月に延びた理由の一つは、地震本部の事務局(文部科学省)が、貞観地震の危険性を一般に公開する前に、その影響を受ける原発を持つ東電、東北電力(女川)、日本原子力発電(東海第二)に見せ、情報交換する場を設けるためだったとみられている*5

 2月17日に、地震本部の事務局は、東電などに報告書の事前説明を提案するメールを送り、同じ日に島崎さんには公表延期を提案するメールを送っている。

 3月3日(東日本大震災8日前)に、公表予定の報告書を文部科学省から見せられた東電の津波想定担当社員は「貞観地震の震源はまだ特定できていない、と読めるようにしていただきたい」「貞観地震が繰り返して発生しているかのようにも読めるので、表現を工夫していただきたい」と要望した。地震本部が貞観地震の報告書を公開すれば、東電がそれに備えていないことが明確になることを恐れ、報告書を改変させようとしたのだろう。

 地震本部の事務局は東電の要望に応じ、報告書をまとめた島崎さんらに無断で、貞観地震のリスクがまだ不確定であるように書き換えてしまった*6

 実は、この報告書書き換えの約1年半前、宍倉さんらの所属する産総研活断層・地震研究センターの岡村行信センター長は、東電の津波想定担当者に「(産総研の研究成果を考慮した)対策をした方がいい」とすでに伝えていた*7

 東電は、宍倉さんらの研究成果にもとづいて計算すると、津波は福島第一原発の敷地を越えてしまうことを2008年には知っていた。だが対策を先送りしていた。岡村さん以外の複数の研究者には、貞観地震のリスクが公にならないよう個別に面談する「根回し」を進めたり、貞観地震の想定をしていた東北電力の報告書(2008)を書き換えさせたりもしていた。

*5 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会『国会事故調報告書』徳間書店 2012 p.461

*6 この報告書は、直後に東日本大震災が発生したため公開されなかった。

*7 添田孝史「『事故前、対策をとるべきだと伝えていた』専門家証言」Level7news 2021年3月12日 https://level7online.jp/2021/0312/