同じ国境の島でも、中国人観光客を待ちわびる金門島とは、少し温度差があるようだ。
「金門は中国人観光客に依存している島。かたや馬祖には、対岸との船の往来はあっても中国人は年間1万人しか来ていません。多分、生態系も景観も福州の島々と酷似していて、それほど魅力を感じないのでしょう(笑)。ですからむしろ、毎年25万人いる台湾本島からの訪問客を今後も伸ばしていきたい」
ちなみに馬祖の方言は福建省北部の閩北語に似ていて、北京語でコミュニケーションはとれるものの、筆者にはやや分かりにくく感じる。
中国の威嚇は想定内、交流はこれからも続く
馬祖列島には今も3000人ほどの軍人が駐留しているという。かつてと比べれば激減したとも言えるが、島の人口を考慮すればかなりの人数である。しかも、金門島と同様、1万4000人というのは戸籍上の人口で、実際に常時居住している島民は6000人程度だとされる(軍人を除く)。つまり住人の3人に1人が軍人ということになる。島の民間人にとって、国軍が島を守っている、という実感はあるのだろうか。
「馬祖では、迷彩服姿の兵士が普通に外出して、コンビニなどで買物をする光景を目にするでしょう? 旧正月前の今は、不燃物の処理などで軍人さんたちに協力してもらっています。常に連絡を取り合っているし、民間人と軍人の距離が近く、一体感があるのが馬祖の特色です。たしかに近海の警備が手薄な場所では密漁、密輸などはありますが、毒物、銃などの武器の売買には軍も海巡署も目を光らせていますよ」(王県長)
ただし、中国軍の侵攻に対する警戒心は、金門島と同様それほど強くない。
「中国からの威嚇については、全く気にかからない、というのが本音でしょうか。偵察のドローンが飛んできたりもしますが、そんなパフォーマンスは想定内です。中国から花嫁を迎えたり、親戚を呼び寄せたり、馬祖島民が福建省で不動産を購入するなど、対岸との交流はここ20年、かつてないほど密接です。コロナ禍でその交流は一時的に遮られましたが、今後も変わりなく続くのだと考えています」(同)
対岸に持つ不動産で豊かになった
王県長が語った通り、今の馬祖列島には特筆するような産業がない。軍人以外の人々はどうやって生計を立てているのだろうか。宿主の陳さんの弟を紹介してもらい、島で最もにぎわう介寿市場の一角で話を聞いた。陳さん兄弟の父親はこの島にひとつある高校の校長で、裕福な部類の一族にあたる。
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