米空軍のF-16戦闘機(写真:米空軍)

 ロシアによる攻撃が続くなか、ウクライナに対する西側戦車の大量援助が紛糾の末に決まった。ウクライナに送られるのは、ドイツ製「レオパルト2(以下、レオ2)」、アメリカ製「M1」、イギリス製「チャレンジャー2」という西側第一線のヘビー級戦車“三羽烏”300台以上だ。

 これを受けて「ウクライナの大平原で西側製、ロシア製両戦車が相まみえての大戦車戦が起こるのか」と想像する読者も多いだろう。だが、NATOの盟主であるアメリカがウクライナ軍に伝授する地上戦の進め方は、「圧倒的な空軍力で敵を壊滅させた後に戦車を繰り出す」というのがセオリーで、こちら側にも相当の被害が出る戦車同士の殴り合いは極力避ける。

 第2次大戦後の朝鮮戦争や湾岸戦争、イラク戦争でも、実はアメリカは戦車戦をできるだけ避け、強大な空軍力で敵戦車部隊を壊滅することに注力した。要は同じ土俵で戦わないのである。

コスパに優れたマルチプレーヤーの米製F-16

 こうしたアメリカの戦術を見越してか、早くも一部メディアは「次は西側主力戦闘機を供与か」と報じ始めている。本命と見られるのはアメリカ製の「F-16ファイティング・ファルコン」。かねてからウクライナのゼレンスキー大統領や同国の首脳・高官たちが欲しがっている機体でもある。

 選ばれる理由はレオ2とほぼ同じ。第一線で活躍する高性能機でNATO加盟国の多くが採用し、西側戦闘機の中では一番在庫があり運用コストも安いからである。

 F-16の初飛行は1970年代半ばで、本国の米空軍はもちろん20カ国以上の同盟国・友好国が主力戦闘機として配備している。第2次大戦後に開発された西側戦闘機の中では歴代3位、5000機に迫る生産機数を誇り、アップグレードを繰り返しながらいまだ生産中のベストセラー機だ。

 全長約15m、最大離陸重量約19トン、エンジン1基(単発)という体格は現用の戦闘機としては小ぶりで、航空自衛隊の主力戦闘機・米製「F-15イーグル」(全長約20m、最大離陸重量約26トン、エンジン/双発)と比べるとひと回り小さい。だが、軽快で扱いやすく調達価格や運用コストも安いことから、多くの戦闘に投入され実戦経験も豊富だ。

 敵機との空中戦を始め、低速時の飛行性能が抜群なことから爆弾やミサイルで地上攻撃をしたり、対艦ミサイルで敵艦を狙ったりとマルチプレーヤーぶり(専門用語で「マルチロール機/多用途機」と呼ぶ)には定評がある。まとまった数をすぐに集められる在庫数やランニングコスト、部品調達のしやすさ、訓練施設や操縦経験者の豊富さなど、現実を考えればF-16が最適だろう。

 アメリカの戦闘機総数は予備機を含め3000機を超えNATOでも圧倒的なので、大量供与は同国のストック頼みとなる。種類はF-16の他にF-15、FA-18、ステルス機のF-22、F-35などをそれぞれ数百機単位で揃えるが、機数やコストの点でやはりF-16が適任で、ステルス機はそもそも軍事機密の塊なので論外だ。

 NATO加盟国のF-16の保有数はアメリカが約950機、トルコが約260機、ギリシャが約150機など計1600機以上で、200~300機の供与は難なく行えるはずだ。

米空軍のA-10攻撃機(写真:米空軍)

 これとは別に、アメリカは自国製A-10サンダーボルト攻撃機も相当数を譲渡するのでは、とも囁かれている。「戦車キラー」と呼ばれ、冷戦期に津波のように押し寄せる旧ソ連軍の大戦車軍団を叩くことを専門に開発された。「30mm」という強力な機関砲や7.3トンという爆弾搭載量の多さ(F-16は5.5トン)を誇り、大量の爆弾や対戦車ミサイルを抱えて敵戦車部隊を丸ごと鉄くずにする“死に神”だ。