NATO(北大西洋条約機構)のウクライナに対する戦車供与の話題が2022年末から急激に騒がしくなり、“秒読みに入ったか”と報じるメディアもある。2023年に入ると、実際にNATO加盟国の一部が西側戦車の提供を正式に表明し始めたが、そのシナリオとウクライナ戦争の今後の戦局について予測する。
NATO主要国が戦車に準ずる「重武装装甲車」支援を決定
ロシアの侵略以来、ウクライナは欧米に「西側製の主力戦車を送ってほしい」と訴え続けているが、アメリカが盟主のNATOは首を縦に振ろうとしない。ポーランドやチェコなど旧東側のNATO加盟国が温存する旧ソ連型T-72系戦車を100両単位で送ってはいるものの「西側の顔をした戦車」を渡すことにはとにかく慎重で、「いよいよNATO参戦か」とロシアのプーチン大統領が誤認し、核ボタンを押しかねないことを心配する。
だがここへ来て潮目が変わり、NATOは西側戦車の大量供与の“前フリ”とも言うべき「重武装装甲車」の支援に舵を切った。
きっかけは2022年12月のゼレンスキー・ウクライナ大統領のワシントン電撃訪問だ。アメリカのバイデン大統領に「早く西側戦車を」と詰め寄ったのが効いたらしく、年明けの2023年1月早々にNATO主要国の米独仏が揃い踏みで、戦車に準ずる戦闘力を持つ装甲車を差し出すと発表した。
アメリカはM2ブラッドレー歩兵戦闘車(IFV)、ドイツはマルダーIFV、フランスはAMX-10RC偵察戦闘車を数十両ずつ供与する見込みで、これらは戦車と部隊を組んで戦場を疾走し、持ち前の火力(打撃力)と機動力で敵主力部隊を撃破する「機甲部隊」に不可欠なアイテムだ。
「戦車に準ずる」性能とは、たとえば兵隊を輸送し“戦場のタクシー”と呼ばれる装甲兵員輸送車であれば、その武装は口径10mmほどの機関銃が主流だが、戦車には全く歯が立たず、装甲の厚さもこの機関銃に耐えるほどに過ぎない。
対してIFVは装甲がより厚く機関銃の弾を難なく跳ね返す。さすがに戦車砲の直撃には耐えられないのだが、それでも20mm以上の強力な“機関砲”でほとんどの装甲車の撃破はもちろん、ロシア戦車なら側面や後ろの装甲がやや薄いので、ここを狙えば損害を与えることも不可能ではない。
また、対戦車ミサイル(ATM)も備えるため戦車の射程外から敵に反撃もできる。偵察戦闘車は1世代前の主力戦車と同じ105mm砲を持ちIFVも当然破壊でき、主力戦車にもある程度対抗できるが、装甲が薄いためさすがに一騎打ちは無理だ。
「戦車は陸戦の王者で無敵では?」と考える方もいるかもしれないが、意外に視界が狭く小回りも利かないため、ATMを使った敵兵の待ち伏せ攻撃には案外弱い。そこで戦車の脇を固め敵兵を蹴散らす「露払い」役となるのがIFVで、敵が潜んでいそうな場所にあえて数発撃ち込み、応戦の程度から敵の規模を探る「威力偵察」を得意とするのが偵察戦闘車のそれぞれの役どころだ。
3車種とも米・仏・独それぞれの国産でNATOを代表する戦闘装甲車両で、これら車両の“解禁”をゼレンスキー氏は一応歓迎するが、「早く本命の西側戦車を送ってくれ」と痺れを切らしていることだろう。
一方、NATO側はプーチン氏の反応を見て西側戦車を渡すタイミングを測っているようだが、ロシアのペスコフ報道官は「ウクライナ国民の悲しみを深めるだけだ」とコメントした程度で、今のところロシア側の強い反発も見られない。
これを見定めたように今度は別のNATO主要国・イギリスが間髪入れずに自国開発のチャレンジャー2戦車の対ウクライナ供与を正式表明したり、ポーランドのドゥダ大統領が自国装備のドイツ製レオパルト2(レオ2)戦車の譲渡を公言したりと、NATO側は「瀬踏み」をしながら西側戦車供与のギアを一気に上げ始めた。