発覚
JAXA報告書によれば、この改ざんは、ある偶然のできごとで発覚しました。
2017年11月の第5回試験の際、血液試料の取り違えが起きました。朝に採血した試料と夕方の試料に、それぞれ逆の表示をしてしまったのです。
このことは、試料の分析結果から分かりました。朝に濃度が高くなるはずの「コルチゾール」という物質が、夕方と表示された試料で高かったためです。
ミスによるこうした取り違えは、起きない方がいいですが、研究不正に当たるような重大な問題とはいえないでしょう。取り違えが発生したことに気づいた「研究者D」は、「研究者B」にすぐに報告しました。(JAXA会見では、この「研究者B」が研究代表者の古川聡宇宙飛行士であると明らかにされています。以後ここでは「古川宇宙飛行士」と呼びます。)
古川宇宙飛行士からは、JAXA内の「人を対象とする研究開発倫理審査委員会」(以後、倫理審査委員会)へ報告が上がりました。これが2018年2月16日のことだといいます。
この倫理審査委員会とは、文科省・厚生労働省・経産省の出している「人を対象とする生命科学・医系研究に関する倫理指針」というガイドラインにしたがって設置されている委員会で、ひらたくいうと、人権を無視した人体実験が行なわれないようにチェックする組織です。
このあと、「倫理審査委員会が調べたところ、試料の取り違えばかりでなく、面談記録の改ざんという重大で深刻な問題が判明した。そのためこの研究は中止された」ということであれば、分かりやすいストーリーなのですが、JAXA報告書の記述はこのあたりの経緯がなんだか読み取りにくいです。
2018年2月か3月に予定されていた第6回試験は、血液試料取り違えが判明すると、早々に中止されています。そして2019年11月には、この研究自体が理事長判断で中止されてしまいます。
ところが、JAXA報告書によると、記録の改ざんが明らかになったのは、研究中止後の2019年末から2020年のことだといいます。また古川宇宙飛行士が改ざんについて知ったのも、2020年だと、記者会見で述べられています。そして「データの改ざんが強く疑われる事実」があったことを、倫理審査委員会が理事長に報告したのは2020年11月16日とされます。
(JAXA報告書によれば、研究を中止した2019年の時点では、試料取り違えだけが発覚していて、改ざんは発覚していなかったように読めるのですが、いったいその程度のミスだけで、研究中止という重大な決断が下されるでしょうか。この点は少々不自然に感じられます。)
ともあれ、2022年11月25日、JAXAは記者会見を行ない、発覚した事実が「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」への「不適合事案」であったとして発表します。
2023年1月11日には、理事長ら3人に「厳重注意」「訓告」などの処分を発表しました。古川宇宙飛行士は「戒告」処分を受けました。
処分に続いて、1月12日に古川宇宙飛行士は記者会見を開き、謝罪の言葉を述べます。
以上が、閉鎖環境試験の顛末です。