いったい何が起きたのか?

 2022年11月25日、JAXAは記者会見を開き、「長期閉鎖環境(宇宙居住環境模擬)ストレス蓄積評価に関する研究」で発生した不適切な研究行為について発表しました(この「JAXA報告書」はこちらから読めます*3)。閉鎖環境試験において、「改ざんというべき行為」があったといいます。

 そこでは、具体的にいったい何が起きたのでしょうか。 公表された資料を元に再現しましょう。(参考:2022年11月25日のJAXA記者会見*4、2023年1月12日の古川聡宇宙飛行士の記者会見*5

 第1回目の有人閉鎖設備試験は、一般から公募によって8名の被験者を選び、2016年2月に行なわれました。8名は2週間にわたって閉鎖設備で生活し、さまざまな検査を受けました。

 ところがここで、予想外のことが起きました。

 この8名は、2週間狭い環境で暮らしても、ストレスを感じたり精神的なダメージを負ったりしなかったのです。担当研究者が被験者の精神状態を判断する面談では、「問題ない」を意味する「青」ばかりが記録されました。(人間は2週間程度閉じ込められても大してストレスを感じないのかもしれません。)

 9月の第2回試験の結果も同様でした。(JAXA報告書には、「ストレスマーカーに有意な変化がみられなかったので、2回目以降はストレスに弱い研究対象者を選択することとした」という、ちょっと唖然とさせられるような発言があったと記されています。)

 これでは、「ストレスに応じて血中の物質が変化することが発見された」というような、計画していたような研究成果が得られません。

 このように予想外の実験結果が出た場合、研究者はどうすればいいでしょうか。

 もちろん答えは決まっています。「この試験ではストレスは認められなかった」という報告をするべきです。それはそれで、ひとつの科学的成果です。そういう結果からは人間のストレス耐性について知識が得られ、それは次の実験を改善する役に立つでしょう。

 けれども「研究者A(JAXA報告書の呼称)」と「研究者C(同)」は、別の手法を用いました。禁じ手の手法です。

 記録上の「青」を、高いストレス状態を意味する「赤」や「黄」に書き換えたのです。

 また、「研究者F」と「研究者G」は、AとCに依頼されて、一旦「青」と判断した面談結果を「赤」や「黄」にやはり書き換えた形跡があります。

 これは、一般には「改ざん」と呼ばれる行為です。研究者が決してやってはいけないことです。(ただし、「研究不正」に当たるかどうかは議論の余地があります。)