経済制裁についても、必ずしもバイデン政権が期待した効果は上がっていない。エネルギー資源の価格が3倍になれば、制裁で輸出が阻害されても、ロシアの収入はむしろ増えるのである。制裁に参加する国も世界200カ国のうち40カ国程度である。中国やインドは、ロシアの制裁逃れを支援している。

 このような状況下で、早期停戦の可能性はあるのだろうか。

停戦交渉再開は難しい

 11月5日、ワシントンポスト紙は、バイデン政権が、ウクライナに対して「対露交渉を拒否する姿勢を改めるべきだ」と非公式に求めたと報道した。これに対して、ゼレンスキー大統領は、停戦交渉再開の条件として、「領土の回復、戦争犯罪者の処罰、ロシアによる損害賠償」を上げ、現時点では交渉には応じないと断言している。

 アメリカやNATOは、ウクライナがヘルソン州を奪還した後には交渉を再開すべきだという考えのようである。しかし、ウクライナが挙げた条件をロシアが飲むはずはない。先に進む見通しは立たない。

 アメリカをはじめとする西側諸国の武器在庫が無尽蔵にあるわけではなく、戦争が長引けば最新兵器の調達が継続できない事態も起こりうる。そうなれば、ウクライナ軍の戦闘能力は一気に低下する。

 事情はロシア軍も同じであるが、核武装していることを忘れてはならない。追い込まれたときには、小型の戦術核を使用する可能性は常にある。ロシアが核大国であることを無視して、ロシア軍の訓練や装備の不足などが西側のメディアで過剰に宣伝されているが、容易に降伏する相手ではない。

 プーチンが、ロシア国民のナショナリズムを動員することに成功している間は、戦争は容易には終わらない。