ウクライナやバイデン政権の主張のみを鵜呑みにして伝える日本のマスコミに、私は辟易としている。かつての仲間たちは、人工妊娠中絶に反対するようなキリスト教原理主義を貫いている。その彼らが、バランスのとれたウクライナ戦争論を展開しているのを見て、意を強くしたものである。

バイデンでは描けないウクライナ戦争終結に向けた地図

 ロシアのショイグ国防相は、11月9日、ヘルソン州のドニプロ川西岸からロシア軍を撤退させることを決めた。3月以降ロシアが占領していた地であり、そこを失うことはロシアの威信に関わるし、大きな敗北である。

 しかし、軍事的には東岸に兵力を集中させて、防衛体制を強固なものにするというのは合理的である。これから寒くなり、大地が凍てつくと、戦車などの兵器を移動させるのが容易になる。また、マイナス20℃以下になると、西側の兵器は凍り付いて使い物にならないが、ロシアの兵器は使用可能である。冬将軍はロシアに有利になる。

 中間選挙後のアメリカ議会で共和党の力が強まれば、ウクライナへの軍事支援の見直しが始まるだろう。それは、今のバイデン政権には戦争の展望を描くシナリオがないからである。ウクライナが求める完全な勝利にまでアメリカが付き合えば、さらなる税金をつぎ込まねばならない。そして、東南部4州やクリミアまで奪還した場合、治安を維持するためには、膨大な支援が必要になる。また、ウクライナがNATOに加盟するとなると、対露安全保障上の「城壁」の構築が必要となる。

 こうなると、「ウクライナ疲れ」どころではなく、朝鮮戦争やベトナム戦争の二の舞になってしまう。

 皮肉にも、ウクライナ勝利のシナリオのほうが、ウクライナ敗北のシナリオよりも、アメリカにとってははるかに高くつく可能性があるのである。