(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
バカの壁とは何か
養老孟司氏の名著に『バカの壁』(新潮新書、初版2003年)がある。その中に、「…自分が知りたくないことについて自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在する」とある。そして、これが「一種のバカの壁」であると書かれている(同書の14ページ)。
筆者は、半導体にもバカの壁があると思っている。しかも、そのバカの壁は半導体業界内に無数にある。元半導体技術者だった筆者は、今は半導体のジャーナリストやコンサルタントとして、半導体全体を分かっているような口調で本コラムを書いたりしているが、実は自分の専門分野以外には多数の壁が存在しており、「分かったふり」をして書いているだけである(ただし分かろうと努力はしている)。そして、半導体業界は非常に複雑なので、もしかしたら、本当に全体を理解している人は一人もいないかもしれないとすら思っている。
これほど複雑で壁だらけの半導体業界であるから、業界の外から見たら、さぞ分かりにくいだろう。したがって、そこにバカの壁が存在するのはやむを得ないかもしれない。
そのようなこともあって、クルマ産業と半導体産業の間には、巨大なバカの壁がそびえ立っていると思われる。
しかし、Connected(コネクティッド)、Autonomous(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の「CASE」と呼ばれる100年に一度の大変革期を迎えているクルマ産業においては、半導体のバカの壁を越えられなかったクルマメーカーは淘汰されていくのではないか。
本稿では、まず、半導体業界の中にはどのようなバカの壁があるのかを論じる。次に、半導体業界内でさえバカの壁だらけであるため、業界内と業界外の間には大きな壁があることを述べる。さらに、クルマ産業と半導体産業との間のバカの壁について説明する。その上で、クルマメーカーがCASEの時代に生き残るためには、このバカの壁を乗り越える必要がある結論を述べる。