小規模出版社が生き残る道はある
――先頃、『ぼくを燃やす炎』の続編である『ぼくの血を流れる氷』の出版が決まりましたね。
古賀 『ぼくの血を流れる氷』は、達成率106%の233万9990円を集めることができました。『ぼくを燃やす炎』はゲイの少年の成長物語でハッピーストーリーでしたが、『ぼくの血を流れる氷』は「自分はゲイなんかじゃない」とフォビアを内面化させる少年の話で、自分を受け入れがたいがゆえに攻撃的になり、もっと弱い者をいじめてしまうという、少しダークなストーリーです。
(参考)http://thousandsofbooks.jp/project/hielo/
差別をしたり、より弱い立場の人に対して「あいつらと自分は違う」と攻撃的になったりするのは、現在の日本社会にもある大きな問題です。自己肯定できないこと、そうさせてしまう環境からくる苦しみは、LGBTQ+でなくても、誰もが無縁のものではありません。つらいストーリーではありますが、似たような状況にある人が何かを見いだせるきっかけになるかもしれませんし、「自分だけじゃない」と気づくことができれば、未来へとつながる勇気をもたらす物語だと思います。
ニッチな趣味向けの本では、ルイーズ・ボランド著『Bookshop Tours of Britain(英国本屋めぐり)』も目標金額を達成して翻訳出版が決まりました。書店を愛して止まない著者が、イギリスの独立系書店を各地の魅力と共に紹介する作品です。
(参考)http://thousandsofbooks.jp/project/bookshoptours/
――日本でも独立系書店やローカルな小規模出版社が増えていますが、今後、出版業界はどのように変わるでしょうか。
古賀 大手出版の流通に乗らない本は出せない、読めない、ということは少なくなっていくのではないでしょうか。デパートがあってセレクトショップや地元の商店もあって、それぞれに違うラインナップがあるように、大手出版社から出る本も、小規模出版社が出す本も、多様な書店で手に取れるようになるといいなと思いますし、他国でもこの形は増えていると聞きます。そして、本を手にした人が「自分は独りではない」と思える物語と出会ってくれたら、と願っています。
【古賀一孝さん】
福岡県生まれ。1999年 西南学院大学経済学部卒業。
株式会社トーハン、株式会社サンクチュアリ出版、株式会社ビー・エヌ・エヌ新社を経て、株式会社AZホールディングス執行役員並びに株式会社草冠取締役に就任。
出版業界を中心に幅広い業務に携わった経験を生かし、2016年11月に株式会社サウザンブックス社を設立。