――出版を前提としたクラウドファンディングを行う際に、何か基準などはありますか。

古賀 内容と海外での評価を調べて、日本で支持されるかどうかを判断します。先行予約としてのクラウドファンディングですから、「まだ日本では誰にも読まれていない本」をPRしなくてはならないので、それが読者に訴求できるかというのは大きなポイントになります。持ち込んでくれた人など、「翻訳出版したい」と強く願う人がクラウドファンディングの発起人になれるか、しっかりPRができるかなども検討します。

 社会問題系の本が多いですが、マニアックなミステリー小説やニッチな趣味に関するものも出しています。テーマにはこだわっていなくて、おもしろさと、国内に読みたい人がいるかどうかがわかれば翻訳出版します。弊社の社名通りに幾千ものコンテンツを生み出すことを目指しています。

自分を重ねられる本が生活圏にあれば「独りじゃない」と思える

――PRIDE叢書と銘打ったLGBTQ+に関するシリーズがありますね。

古賀 スペイン大使館が推薦していた人気ブロガーの作品『ぼくを燃やす炎』(マイク・ライトウッド著)を5年前に翻訳出版した際に、LGBTQ+に関する書籍はシリーズ化した方が欲しい人に届きやすいだろうと考えました。シリーズにすれば、関心のある人が次の本も注目してくれるでしょうし、わかりやすいですよね。「PRIDE叢書」は、現在までに10冊ほどが刊行されています。

 昨今はLGBTQ+について話題になることが増えましたが、人権や差別といった問題を完璧に正しい知識で正しく知るというのは難しく、危うい部分もあります。メディアで流れてくる表面上の事実以外のところを補えるのが本や映画といったコンテンツの底力ではないでしょうか。つらい思いをしている当事者がいることに想像力を働かせたり、自分以外に似たような気持ちを持つ人がいると思えたりするところにフィクションが持つ力、本が持つ可能性を感じています。

 他のマイノリティについても、関心のある人や当事者に対する物語の力は大きいと思います。事実だけではどこかギスギスしてしまって、当事者はかえって閉じ込もってしまったり、アライ(理解し、支援する人)やサポーターは腫れ物扱いしたりしてしまうこともありますが、物語の力で身近に感じられるのではないかと思いますね。

*写真はイメージ

――LGBTQ+に関するノンフィクション作品はよく目にしますが、子どもや若い人には読みにくいかもしれないですね。

古賀 個人のサバイバル術やエッセイはけっこうありますね。励まされる人がいる一方で、「ああはなれない」と凹む人もいます。翻訳本も「アメリカだからできたんでしょ」と受け止められることもありますが、「うまくいっている国があるんだから、日本でもできるんじゃない?」と捉える人もいますし、いろんな受け止め方があります。

 LGBTQ+に関する絵本など児童書も出していますが、子どもたちにとっては、こうした本が生活圏にあるだけで「自分は一人じゃない」と自己肯定ができるのではないかなと思います。

 私が小学生、中学生の頃は、学校の図書室にLGBTQ+に関する本は1冊もありませんでした。身近な場所に1冊の本もないとLGBTQ+かもしれないと悩む子どもたちは「自分は例外の人間だ」と孤独になります。病気がある子どもや、病気の家族を持つ子どもたちも似たような状況でしょう。

 もし、身近にこうした本があれば、この世界に独りぼっちの存在ではないと感じられるでしょうし、その本を選んで図書室に置いた先生なども含めて、「気にかけてくれる誰かがいるんだ」というサインになるかもしれない。そういった意味も込めて、マイノリティがテーマの出版物は増やしたいと思っています。