そして2カ月後の今年5月、タリバンは女性の服装について「公共の場では顔を覆うこと」との規定を発表した。また、今まで黙認されていた夫婦揃っての茶店への出入りも禁止された。やはりタリバンはアフガニスタンを1990年代後半のあの時代に戻そうと考えているのか? またもや女性を家に閉じ込めようとしているのか?
かつてパキスタンのペシャワルやアフガニスタンのカンダハル、国境の町チェマンで見た光景が頭に蘇った。
女性の存在が極めて希薄化された世界
タリバンとは神学生の意を持つ言葉だが、イスラム主義組織「タリバン」が結成されたのは、アフガニスタンとの国境に近いペシャワルのマドラサ(神学校)だった。そのためペシャワルはイスラム世界の濃厚な空気に包まれた町だ。この町を訪れてまず感じた違和感は、女性の存在がまるで昼間の月のように希薄なことだった。
通りを歩くと黒いターバンを巻いて刺すような眼をしたパシュトゥン人、パコールという帽子を被ったハザラ人など多様な男たちとすれ違う。そんな男達が歩く道の隅を、まるで遠慮するかのように静かにニカーブ(目だけを出し、あとは全身を黒い布で覆う服装)姿の女性が歩いている。町では男女が腕を組んで歩く姿はもちろん、通りでの女性同士の立ち話なども一切見かけない。女性達は家を出て用事を済ませると、そそくさと帰宅するのだ。
チャイ屋、絨毯屋……。建ち並ぶ店内にも女性の姿はない。女性は外では働かないのだから、当然バザールの店員も男だけだ。
チャイ屋で茶を啜っていると、めずらしく夫婦と思われるカップルが入って来た。店内にいた男達の目が一斉にカップルの姿を追う。二人が奥のテーブルに座ると直ぐに店員が飛んで行って、カーテンで目隠しした。
近くに座っていた男に訊いた。
「なぜカーテンで隠すの?」
すると男はあきれたような顔で答えた。
「当たり前だ。男と女が我々の前で同席することはありえない」
「じゃあ、女性の役割は?」
「女は家で家庭を守り、夫に尽くす事が与えられた役割だ。女が社会の先頭に立つことはない」と言う。
ちょっと前までの日本でも言われていたような言葉が返ってきた。
「しかし、かつてこの国の首相はブット女史だったはずだがね……」
「あの人は父親も首相だったから……」
と、男は歯切れ悪く答えると苺ジュースをズルッと啜った。つまりは特権階級と庶民では環境も立場も違うということか。