複数のセフレを持つ層がサル痘の温床か
冒頭にも述べたユニコーン企業も生み出した“出会い”の変化とは、同性愛者のマッチングアプリの存在のことだ。代表的なものが、世界で月に1100万人が利用している「Grindr(グラインダー)」である。
グラインダーは2009年、米カリフォルニアで創業した。創業者はイスラエル出身の当時30代男性、ジョエル・シムカイ氏だ。その後、グラインダーはサービスの拡大を続け、いったん中国企業に買収された後、米国が安全保障上の目的で売却を求め、2020年にSan Vicente Acquisition Partnersが買収した。
さらに、2022年5月には特別買収目的会社(SPAC)のTiga Acquisitionが21億ドル(日本円で3000億円)でグラインダーを買収し、この会社を通し上場会社になると発表された。SPACによる“裏口上場”である。
この10年間を振り返ると、世界最大のグラインダーをはじめ、同性愛者の出会いを促すアプリが次々とローンチされた。とりわけ同性愛者は自身が同性愛者であることを公にしていないことも多く、アプリを使った出会いは偏見を乗り越えるには大きな力になった。
1980年代までは、雑誌などの出会いの掲示板や、新宿二丁目のような限られた場所が出会いのきっかけだったが、1990年代にインターネットが発達したことで、これまでよりも容易に出会いを見つけられるようになった。そして、2010年代に起きたマッチングアプリ興隆が、性指向ゆえに制約を強いられていた同性愛者を解き放ったと言っても大げさではない。
多くの場合、アプリのGPS機能を利用することで、多くの男性同性愛者はパートナー候補が集まるバーや温浴施設、専用のアパートメントなどに集まる。日本でも、「発展場」や「クルージングスペース」などと呼ばれる場所では出会いが活発になった。
アプリでの出会いなどをきっかけに、多人数を対象にした長時間のパーティーも日常化した。タロウさんは、「出会い系アプリをはじめとしたSNSの普及で、不特定多数との性交渉が盛んになっていると強く感じる」と話す。タロウさん自身も、積極的に出会いを求める方だと話す。
例えば、タロウさんは特定の同性パートナーを持つものの、並行して性交渉を伴う密接な関係にある友人3人とつながりを保っている。タロウさんによると、相手の3人はタロウさん以上に不特定多数の同性愛男性との出会いに積極的だという。
また、すべての男性同性愛の人々が性行動に積極的なわけではないと断った上で、タロウさんは「不特定多数や複数を相手にした性交渉を日常的に行う男性同棲者が多い印象がある。サル痘が感染拡大している背景にはそうした男性同性愛者の行動がある」との見方を示す。