福音のワクチンも活発な性交渉を助長するだけか
今後懸念されるのは、男性同性愛者の中でのさらなる感染者増加、そして男性同性愛者以外への感染の拡大だ。
注目されるのは、ワクチン接種の影響がどれほど有効性を発揮するか、だ。
冒頭で触れたように、米国や欧州でワクチン配備が進む方向にある。サル痘の場合、1980年に世界根絶宣言がWHOから発表された天然痘のワクチンを使う。
1970年代までは天然痘のワクチンである種痘が行われたため、40代後半以上の世代は種痘を受けているが、若い世代は種痘を受けていない。そこで、若い世代に対しては、過去の種痘をさらに改良したワクチン接種が進みつつある。ワクチン接種が進めば、サル痘の感染拡大の抑止につながると期待される。
米国においてはサル痘の急増もあり、ニューヨーク州などではワクチン予約サイトがアクセス困難になるような状況も報じられている。インターネット上の情報などをもとに、危機感を感じた男性同性愛者の人々が接種を希望する動きになっているようだ。
タロウさんによると、英国の男性同性愛者のコミュニティーではサル痘の認識は低かったが、ワクチン接種の枠は短時間で埋まるようになったという。ワクチン接種をきっかけに、サル痘に備える動きが広がるかもしれない。
半面、前述のPrEPと同じように、予防対策が講じられることで、活発な性行動を助長する可能性には注意が必要になる。
タロウさんは、「サル痘のワクチン接種者が仮に増えても、アプリを通して不特定多数との気軽な性行動に変化がないどころか、リスクが軽減されたと誤認識し、より活発になることも考えられる」と推定する。
国境を越えた男性同性愛者の交流は、日本へのサル痘の流入を考える上で重要なポイントになりそうだ。
「日本の同性愛者は、どちらかといえば同人種(アジア人)で交流することを好む。そのため、他のアジア地域(特に東南アジア地域)で感染者が増加しなければ、欧州ほどのスピードと量で増加することはないだろう」(タロウさん)。
ただし、タロウさんによると、バンコク、バリ、シンガポール、クアラルンプール、香港などでは全人種での性的交流が行われやすい。7月21日にタイで初めてのサル痘が報告されたばかりだが、今後、東南アジアでの感染拡大の動向次第では日本にも影響が及ぶ恐れも考えておく必要がありそうだ。