(羽田 真代:在韓ビジネスライター)
筆者の母親が朴振(パク・ジン)外相が来日した時のニュースを見てこう言った。「尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領になってから、韓国の態度がガラリと変わったよね。文在寅(ムン・ジェイン)大統領は本当に最悪だった。これで日韓関係もマシになりそうだ」と。
本当にそうだろうか。2022年7月18日から20日までの来日期間中、朴振外相が徴用工問題で日本に強調したことは、「日本側が誠意ある対応をしてくれることを期待する」だった。
尹大統領は、文政権下で進められてきた日本企業の資産の現金化を避けるために解決方法を模索すると主張している。しかし、彼が大統領に就任してからこれまで、具体的な案は何も提示されていない。韓国側から解決方法を提示する可能性は極めて低いと言わざるを得ない。
日本企業の資産は、早ければ9月から10月の間(一部報道では今夏)に、韓国裁判所が現金化する最終結論を下すだろうと言われている。あと2カ月で、この大きな問題を解決できるだろうか。
尹政権が阻止できなかったところで、「日本が解決策を何も提示しなかったから致し方なかった」「韓国は三権分立国家だから、政府は現金化を止めることができなかった」と言い訳すれば済むだけのことだ。どちらに転んでも日本は加害者で悪者だと、韓国は国内外にアピールできる。
ただ、現金化したところで、そのカネが被害者と言われる人にすぐに支払われるのかは不明だ。支払ったところで、「日本は謝罪していない」と被害者が再び抗議してくるのは目に見えている。このような声を、尹政権が鎮火できるとは思えない。
筆者の母親が「尹大統領はまだ話の通じる人だ」と感じたのは、日本と対話を通じて関係を改善しようとする、その姿勢だけを評価したに過ぎない。娘が韓国と関わっているから、いい国だと信じたいという思いもあるだろう。元々、母は筆者の渡韓に反対していた。
日本のメディアも韓国メディア同様に、日韓関係を改善すべきだと報じることが増えてきた。日本企業の資産の現金化の可能性について報道しても、韓国のその行為を痛烈に批判するメディアは少ない。
だから、関係改善のために日本が少々カネを出すことは仕方がないと考えたり、謝罪くらいしてもいいのではないかと思ったりする人まで出てくる。尹大統領のように話の通じる人であれば、今度こそ国家間の約束も守ってくれるだろうと希望を込めて……。