リストラではなく「タレントキャスティング」の詭弁
リストラを断行する前に開催されるのが、部下にリストラを言い渡す管理職を一堂に集める、通称「リストラ研修会」だ。
本来、リストラは客観的、合理的な理由がなければ簡単に行えるものではない。企業は法的に訴えられることがないよう、慎重にことを運ぶ必要がある。そのため、リストラ対象者に「何をどのように告げるか」を管理職に伝授する場を設けているのだ。このような管理職向けのリストラ研修会は、リストラを実施する企業ならば、ごく普通に行われている。
Kさんもこの研修会には、管理職になってから毎回参加させられているという。
「ま、この研修会は私が管理職になった10年くらい前からずっと同じような感じ。ただ、以前はこれが3~4年に1回しかなかったのに、ジョブ型になってからは年1回になった」
研修会に登場するのは、人事部の社員、会社の顧問弁護士、さらに再就職先を斡旋する人材紹介会社の担当者だ。
まずは人事が今なぜリストラが必要なのか、対象者の年齢の範囲、リストラの仕組みなどを説明する。法律的に誤りがないかどうかは、そばで顧問弁護士が目を光らせている。
「このリストラ弁護士の顔が、もう、なんというか怖いのよ。この会では絶対に『リストラ』という言葉は使わないの。『タレントキャスティング』とか言っちゃってね」
集められた管理職には、リストラ宣告時に言うセリフをまとめた台本が配られる。セリフの冒頭はこんな感じだ。
「来年度にこの部門では、あなたのタレントにキャスティングできる職種がありません。あなたは、今後の選択肢として、会社から○つ用意しています・・・・・・」
全く同じセリフを、一言一句間違わずにそれぞれのリストラ候補に同じように繰り返すそうだ。余計なことは一切言うなと教えられている。