自分がその年齢になったら……

 無職となったミチには住まいを借りることも難しい。じわじわと脅かされる、ささやかな日常。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 自らの生死を選択できる。そのうたい文句とは裏腹に、死を選択せざるを得ない社会のムード。子どもが親に直に手を下した『楢山節考』と違い、『PLAN 75』は誰も手を汚さない。申請窓口で働く男性や死を選んだお年寄りのサポートをするコールセンターの女性スタッフは自分たちの仕事をしているだけで、選ぶのはあくまでも本人。そう見せかけて、社会が老人たちの居場所をなくしていく。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 なんとなく生きている人は淘汰され、生きたいと強く願わない人しか生きていけない時代がくるとしたら。力を持っている人しか生き残るのは難しい。老人たちの命の価値に格差が生まれる。いや、既に格差はあるのだ。「プラン75」は支度金として10万円がもらえる。「たった10万円」と思うのか。「10万円も」と思うのか。孤独死の問題もある。なかには人知れず、たった一人で死ぬより、誰かと一緒がいいと考える人もいる。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

 医学の発達で急速に伸びた日本人の寿命。長生きをありがたがった時代はそろそろ終焉を迎えるのだろうか。劇中、「プランが好調なので、プラン65も検討しています」というナレーションが入り、ぞっとした。自分がその年齢を迎えた時、プランを受け入れないでいられる自信がない。それでも疑問は持っていたいと思う。何歳になっても、考えることをやめないで。この作品はそう強く訴えかけているようだ。

©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee

『PLAN 75』

6月17日(金)より、新宿ピカデリーほか全国公開

脚本・監督 早川千絵
脚本協力 Jason Gray

出演 倍賞千恵子 磯村勇斗 たかお鷹 河合優実 ステファニー・アリアン

配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2022『PLAN 75』製作委員会/Urban Factory/Fusee